2016.03.29
ここ数年、街行くビジネスマンたちのスーツを眺めていて胸騒ぎを感じていたパンツのピタピタ感。昨年の夏頃には、股間が露わになるほどスキニーなスラックスに、アンクルソックスと革靴を合わせるという、イタリアでも捕まりそうな着こなしも見かけたほど。
しかし、ここ最近はテーパード人気もあってか、パンツのシルエットにも少しばかりゆとりが生まれはじめ、ホッと胸を撫で下ろしていた。そんな中、またザワつきをもたらしているのが、パンツの裾丈問題だ。
スーツにおけるパンツの裾丈の長さは、裾幅やデザインに合わせて変えるもの。
・シングルで裾幅の広いパンツ
→ワンクッション(靴の甲にしっかりかかる丈)
・ダブル又はノータックもしくはワンタックで裾幅が標準的なパンツ
→ハーフクッション(靴の甲、かかと上部にかかる丈)
・ノータックで裾幅の狭いパンツ
→ノークッション(靴の甲にあたらない丈)
これが基本形となり、それぞれの体型や着こなし方に合わせて、裾上げを行うのがセオリーだ。しかし、近年はタイトフィットの潮流もあり、ワンクッションは影を潜め、主流はハーフクッション、20~30代ではノークッション支持者が急増している。
そもそも、スラックスをノークッションで穿きだしたのは、60年代アメリカの俳優やジャズマンたち。細身のスーツで裾や丈を少し短くしたファニーな着こなしが、正統派へのアンチテーゼとして若者たちのアイビールックなどにも波及した。そのトレンドはアイビーブームとして日本にも上陸すると、短足で華奢な日本人によって独自のコンパクトなサイズ感へと変貌を遂げる。そして、90年代にクラシコイタリアが台頭すると、ビジネススーツのタイト化にも拍車がかかり、近年ではトム・ブラウンをはじめとする多くのブランドが、アイビーテイストを取り入れたスーツスタイルをリバイバルさせた(実は、トム・ブラウンに至ってはVANを中心としたかつての日本流アイビーを模倣しているという説もあり、短丈のルーツはもはや海外発のスタイルとも言えなくなってきている)。こうしたヒストリーを知ってか知らずか、スラックスの短丈はいまや量販店スーツにも取り入れられ、いよいよメジャートレンドになりつつあるのだ。
では、何が問題なのかというと、それはソックスのチラ見え。前途のパンツの短丈ヒストリーは主にカジュアルやモードファッションの世界の話しであって、ビジネススーツの着こなしでソックスが見えるのは今も昔もご法度だ。にもかかわらず、チラ見えどころか丸見え状態のツンツルテンパンツで闊歩する、ビジネスマンたちが登場してきているのだ。かつてから、ダボダボ・クタクタ・ツンツルテンというおじさんスーツの生態は、世間的にも認識されているだろう。しかし、このソックスチラ見え、ソクチラ男というのは、おじさんスーツのそれではなく、ファッション雑誌などもちょっと意識していそうな男性諸氏にも見られる傾向なのだ。
丸の内、新橋、田町、渋谷の4エリアでリサーチしてみた結果、ソクチラ男には大きく分けて3つの流派があることがわかった。
①アイビー系ソクチラ男
ファッション誌発信のアイビースタイルを鵜呑みにした、セレクトショップ大好きスタイル。ツーブロックに黒のウェリントンでおしゃれにしたつもりがとんだステレオタイプ。ビジネスシーンに柄や白ソックスはいただけない。
②チャラリーマン系ソクチラ男
あらゆるアイテムにモテ(と自分で思い込んだ)要素を重視する勘違いクラシコイタリア系。ネイビーのスーツに眩く浮きまくるキャメルカラーのウィングチップシューズ、そして黒のソックスを合わせてしまう謎。夏場はアンクルソックスで生足風に。
③ダメリーマン系ソクチラ男
ヨレヨレスーツにヨレヨレソックス、ダメおじさんスーツ予備軍。量販店スーツを今風に丈詰めし過ぎたのか、足を組むとたるんだソックスからすね毛がチラリ。
最近では、ジャケパンスタイルがOKという職場も多く、そうしたカジュアルダウンしたオフィスウェアであればソクチラも否定しない。しかし、ビジネスシーンのライフウェアともいえるスーツには、対人マナーがあって然るべき。一流のホテルやレストランのサービスマンにソクチラ男が決していないのはお客様に対する敬意の表れで、商談や会議の席でもそれは同じこと。また、女性ウケという点からしても、男性のスーツスタイルは足を組んだ時にチラリと覗くソックスがセクシーなのであって、丸見えにされてはたまらない。
男の品格はスラックスの裾に見え隠れする。これからスーツを誂えるフレッシャーズの殿方たちには、ぜひ心得ておいて頂きたい問題だ。