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2016.03.20

vol.9 TOKYO NUDE
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近年、音楽シーンでは、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略称)という言葉が流行している。Steve Aoki、Afrojack、David Guettaなど、世界的に有名なDJはトラックメーカーとしても活動し、オリジナルのアレンジやミックスを駆使した音を取り入れながら不朽の楽曲を鳴らしオーディエンスの身心を震わせる音の魔術師と呼ばれる者もいる。今年は、スペイン・イビサ島の世界最高峰の人気を誇る『PACHA』が音楽フェスティバルとして(5月3日にキックオフ・イベント開催、年末に本祭の予定)日本上陸というホットなニュースもあり、フェスへ足を運ぶ人の数も増加傾向にあるという。

しかし、この10年の間に東京の音楽を楽しむ場所は減少しつつある。ハウスの聖地とされていた西麻布の『Space Lab Yellow』がクローズしたのは2008年(その後、2010年オープンの『eleven』も2013年に閉店。姉妹店として知られた『module』も2014年に閉店)。2015年には、New OrderのJoy Division、ハウス界のレジェンド、David Morales、Louie VegaやEMMA、FPMなど、国内外の人気DJのパーティで盛り上がった『Air』も閉店した。上記に挙げたスポットは、俗にいう夜の遊び場=クラブだ。フェスとクラブの共通点は、“日常では味わえない空間で音楽が楽しめる”という魅力がある中、フェス動員増とクラブ減という反比例の現状は一体? 
TOKYOWISEの今特集の一記事、<「今の東京は面白くない」と40代の男たちが口を揃えて言う本当の理由とは?>のように、カルチャーにおいて世代や時代の違いは影響しているのだろうか。

クラブシーンの現場の声


「イベントやお店の趣向によって年齢層の幅はあるとは思うけど、うちのお店は20代の客層が偏って少ないという感じはないな。音楽への興味が薄いって印象もない。ただ、世代うんぬんではなく、共通の目的やキーワードがあって、時間や空間を“限定”して共有するって人は増えたような気もする」

そう話してくれたのは、長年、クラブや音楽の現場に携わっているSHU氏(以下、S氏)。現在は、東京トレンドの発信地のひとつである原宿の『UC-HARAJUKU-』(※1)の店長を務めている。

「今はテクノロジーが進化しているからパソコンやスマートフォンがあれば、個人で好きな音楽や映像が堪能できる。お酒を飲むにしても家飲みや格安の居酒屋もあるわけだから、”わざわざクラブに行かなくても”とか “実体験しなくてもイイんじゃん”って思う人は少なくない気がする。それが、クラブという場所の減少理由に直結しているとは思わないけど、何をしていいかわからない場所にあえて行くのは勇気が必要だし、善しも悪しもドキドキするでしょ。例えば、ディズニーランドのように世代うんぬん抜きに、休みを利用して明確な楽しみがあるところへ行く人は沢山いると思うんだよね。だから、日程や内容、目的も明確な週末に行われるフェスへ行く人が増えてるんじゃないかな」

ダンスミュージック好きはもちろん、EDMファンの間で有名な『ULTRA JAPAN』(今年は9月17日~19日に開催予定)などのフェスが人気の理由に説得力が増す。筆者がS氏と出逢ったのは約15年前。自身がストリート・カルチャーを発信する雑誌編集部に属していた頃だ。ライヴができる環境、様々なジャンルの音楽イベントやパーティありの恵比寿『Milk』の思い出が蘇る。
当時は、クラブDJの主流はレコード。スキルやテクニックに興味を持ってDJブースの近くに人が群がるという光景も珍しくなかった。そんな懐かしい思い出や昔話に花を咲かせながら、S氏は今感じていることを以下のように語ってくれた。

「十数年前のクラブは、好きなDJのプレイが見たい!好きな音楽を聴きに行く!の他に、友達や好きな人に出逢える、初対面の人と仕事に繫がったりとか、あとやっぱりナンパ目的(笑)!! そんな音楽以外の要素もあったかな。漠然としながらも入り混じっている感じで、だから毎日とりあえず行く!という感覚があって行動する人も居たと思う。例えば、先輩に誘われたときは、ご馳走してもらえたり人を紹介してもらえたりとかも期待してたし。でも、今は、景気の影響もあって、飲み代や遊び代とか自分の財布の中身を気にしちゃうし、実際、僕も気にしちゃうし(笑)、知らないことへの好奇心や興味に加えて、使う時間やお金の使い方を考えているところもあるのかなって。だから、明確な理由があって、“限定”せざるを得ないというか……、色んなことに真面目で堅実な気がする。だから、僕らも対価として楽しい事を提供する義務があると思うんですよね」

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さて、東京のクラブシーンはどうなるのか?


S氏の言う通り、景気の影響があらゆるシーンに波及しているところは無視できない。また、極端に言ってしまえば、衣食住のライフスタイルに必要のないものかもしれないが、東京という街の中で音楽が楽しめる場所も人も減少の一途をたどるとすれば、それは何だかつまらない。財布の中身が潤っていないからといって、楽しみや心の潤いまで無くなってしまうのは願い下げだ。これからの東京のクラブシーンの未来はどうなるのだろう。

「この10年間、閉店したクラブがいくつもあって、年々フェスが盛り上がっているのは現実。自分もそうだけど、お店の運営や状況を深刻に考えている人が多いのも確か。けれど、2020年のオリンピック開催に向けて人種や世代、流行の垣根を越えて多くの人が交流できるエンタテインメントの場所はたくさん出来ていくと思うし、今もこれからも、クラブという概念にとらわれすぎず、ニーズに応えられるアイデアや工夫が必要になってくると思う。やっぱり夜は楽しくないとね!!」

最高級の音響システムを備えたバーでクラブミュージックが堪能できる『Bridge』(※2)が盛況を博していることや、4月1日に新たにオープンする『Contact』(※3)のようにジャンル・レスで楽しめるスポットが誕生するという点では、東京のクラブシーン(夜の遊び場)の変化はもう始まっているのかもしれない。
時代と社会の流れによる時間の使い方へ警笛を鳴らしつつも、これからの発展と期待に願いを込めて動向を追っていきたいと思う。

(Text:Sayaka Miyano
(Photo:Atov Matsuoka)

※1 UC-HARAJUKU- http://www.ucess.jp
※2 Bridge http://bridge-shibuya.com/
※3 Contact http://www.contacttokyo.com/

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