2016.04.20
やたらと“グランピング”というフレーズが散見される今日この頃。なんだか腑に落ちないなぁ、と編集部で独り言を言っていたところ、某アウトドアブランドでも働く部員が、「それじゃあ、その道の達人に、ホントのグランピングとはなにかを聞きに行きましょう」と言うので、アウトドアコンシェルジェとして知られる、yossyさんのところにお話を伺ってきました。
「今、日本でグランピングと言ってもてはやされているのは、富裕層がやっているリアルな”グランピング”を真似して一般の人たちが始めた”カジュアルグランピング”のことですね」
時は2010年初頭。“グランピング”でググってヒットしたのは、伊勢志摩の『エバーグレース』とyossyさんのブログだけだったのだ。
「そもそも、アメリカでのアウトドアブームがここまで広がったのは、リーマンショックの影響が大きくて、『BEST MADE』 の斧 にペイントしてオフィスの壁にかけておくのが流行ったんですよ。で、週末は斧を壁から取って、焚き火をするという変な自然回帰が流行っいて、ニューヨークで斧がすごく売れたり。IT業界で働いていた人が自分の職業に疑問を抱いて自然回帰するという感じで。その頃から”カジュアルグランピング”が流行り始めたんですね」
“グランピング”的な要素とは
「基本は自然回帰の方向に向かうところなんでしょうが、ヘミングウェイ達がやっていた”サファリ” (家の家具を全部持って、召使もコックも連れて行く形式)がベースだと思います。一般的に”グランピング”の起源は大航海時代のヨーロッパに遡るとさえ言われていますが、僕の見解としては、ヨーロッパの人たちが侵略で出て行った時だから、厳密にはその時代のは”レジャー”ではない。となると、”サファリ”は純粋にレジャーなので、大航海時代とは異なって、”サファリ”こそが”グランピング”の発端ではないかと」
「ある意味、お金に糸目をつけずに、サバンナの真ん中だろうが、普段の自分たちの生活を大自然の中に持ち込んでしまうくらいの勢いが、”グランピング”らしい。サバンナの真ん中で象やライオンの鳴き声を聞きながら、リネンのかかったテーブルでフルコースのディナーを食べたりしていたんですよ。当然、インテリアも凝りまくっていたし、『エルメス』にグランピング用の家具がったのもそういう流れだと思う。1900年代後半に『ハンティングワールド』出てきた頃から”サファリ観光” (野生動物を間近で見よう – 動物愛護的流れ)が アフリカを中心に広まったんですね。ラグジュアリーブランドもこぞってサファリジャケットを作っていたしね。もっともこの”サファリ”という呼び方も元々は長旅のことを指していたんだけど、アフリカでやることが多かったため、”サファリ”=アフリカってイメージになったのだと思います。」
上から下へか、下から上へか
では、グランピングというのは、元は上流階級や支配層のものだったということなのだろうか。
「これも僕の見解なのですが、上流の本格的なある種の遊びとしての”グランピング”があって。そこでは、お金に糸目をつけずサバンナの真ん中でフルコースを食べてしまうくらういの感覚。そして、快適なキャンプをしながら、象やライオンの鳴き声が聞こえてくるという、要するに上からの流れが本来の”グランピング”で、アメリカを中心に流行り出した”カジュアルグランピング”も、それをもうちょっとカジュアルに楽しもうというのが本流です。ところが日本でみんなが言う”グランピング”は、普通のキャンプをちょっと豪華にしてみましたという、下から上に上がろうというので、これは本来の”グランピング”の意味とは違う文脈だと思う」。
とはいえ、なんだか”グランピング”という言葉が独り歩きしているのも事実。
「世界の”グランピング”を見てきた人にとっては今の日本の”グランピング”は違和感があるだろうね。韓国あたりではアレンジせずに本来のグランピングを実行していますよ。日本では言葉だけが一人歩きしていて文化がついて行っていない感じだと思う。上から降りてきた”カジュアルグランピング”というものを知って、もっと洗練された形なってくれないと単なるブームで終わってしまうのではないかと危惧してますね」。
達人はなんでもかんでもを言葉としてのブームとして捉えることを残念がっていらっしゃった。これはグランピングに限らず昨今の日本の文化消費の傾向なんだろうけど、本物を知る眼からは悲しい現実に移ってしまうのだった。
Yossy
アウトドア コンセルジュ、マーケティング。
バーテン、ホテルマン、イベンター、アパレル等を経て、アウトドアの世界で20年以上の経歴を持つ。これまでの経験を全て活かした仕事を模索するフリーランス。