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2014.12.15

vol.4 TOKYO Midnight
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隣人を恐れ、静音生活を送る東京住民たち

東京は騒がしい。雑音。喧噪。車が行き交う音、クラクション。人々の話し声。 常に音と接していて、無音とは縁遠い東京での生活。そんな中、他人が聞くと少し(かなり?) 奇妙な「静音生活」を送っている人がいる。「静音生活」とはなんぞや? 東京的「静音生活」が日常となっているというTOKYOWISEのメンバー、M氏に彼女の自宅マンション(中野区)でその生活の実態を聞いてみた。

地方出身の彼女が静音生活を始めたのは、東京で最初に一人暮らしを始めてから。隣人の足音さえ聞こえてしまう単身者用のマンションで快適に暮らすには、入居者それぞれが生活する上で発せられる“音”をいかに外に漏らさないか、工夫する努力をしなければならない。
そこで、まず彼女は自宅で軽くエクササイズをする際、下の階に音が響かぬよう、フローリングに防音マットを敷いた。(今はご主人が筋トレをするときに使っているとか。) また、テレビを見るときは常にワイヤレスヘッドフォンを使用する。テレビはPCとしても使えるように設定してあるので、気分が高揚したときはPCモニターに切り替え、Youtubeから好きな音楽を検索。ワイヤレスヘッドフォンから流れる爆音に陶酔し、ワインを片手に一人躍り狂う。星の数ほどある東京のマンションの一室で、なんとも奇妙な光景が繰り広げられる。
この話を聞いて思い出したが、私の知り合いにも、夜な夜なひとりビールを飲みながらパソコンの前で耳にイヤホンをし、ひたすらYoutubeで好きな音を探しサーフィンするという女子がいる。気がつくとそのままオールしてしまうこともあるらしい。

彼らは自分のプライベートな空間である自宅にいるのにも関わらず、好きな音楽を好きな音量で放出せず、ヘッドフォンやイヤホンを使って近隣住民に異常なまでも気を使い、“音”を漏らさぬよう心がける。

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「なんでそこまで気にするの?別にテレビなんて普通の音量でつけていればまず文句言ってくる人なんていないし、音楽もノイズにならない程度でかければいいんじゃ・・」と、同じく都内のマンション(アパート)に住むが、特に静音生活を送っていない私は自然な疑問を投げかけてみた。

すると彼女が言うには、「うちのマンション厳しいのよ。この前なんて、管理人から公共の場で雑談をしてはいけない、携帯を使ってはいけない、なんていう注意書きがびっしり書かれたチラシが回ってきて。誰かの気に障って嫌がらせを受けたら嫌だし。」とのことだ。
確かに、この手の警告がなされるタイミングというのは、住民の誰かが誰かの騒音に対して不快な思いをし、それを管理人に報告したケースが多い。M氏は自分はクレームを出したことはないが、玄関の扉を開け閉めする音が最も嫌で、隣人が家を出入りする度に不快な思いをするという。
そういえば私の友人で、自宅のアパートで毎日夜23時頃に洗濯機を回していたら、ある日ポストに「夜に洗濯機を回さないでください」という手紙が入っており、その後ポストが破壊されていたという話を聞いたことがある。(手紙の警告のあと、彼女がすぐにその行為を改めたかは定かではない)

こうしてみると、どうやら“音”に対して異常に敏感で、その元となるのが人であり、我慢の限度を超えるとそれに対し攻撃体制に入る“静音モンスター”なる人種が少なからずいるようだ。
東京で静音生活をしているM氏のような人たちは、実は“静音モンスター”になるポテンシャルを秘めたタイプの人たちなのではないか?
また一方で、人が発する音に無関心な人もいる。生まれたときから東京に住んでいる私は“無音”が怖く感じられ、自宅で一人のときは人の気配の“音”がする方がむしろ安心してしまう。もちろん過度は騒音は嫌だけれども。

“東京”という人と家の距離が奇妙に混ざり合った空間の中で、静音モンスターは生まれるのかもしれない。

(Text:Nao Asakura
(Illustration:Shinobu Ono)

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