2017.06.12
若者が住みたい街、文化人系の街、ゆるーい街、古着とカレーが好きな街……。おしゃれタウン下北沢とこんな共通項を持ちながら、圧倒的なドロップアウト感を放つのが、高円寺。閑静な高級住宅地を多く有する杉並区の中でもイーストサイドにあり、最も都心に近いはずなのに、唯一無二のユルさと庶民的なイメージを醸し出してしまう。また、JR中央線では各駅停車で新宿から9分、快速では7分という利便性の高い街だが、土日は快速が停まらないというプチ屈辱感に苛まれているところもまた、高円寺らしさだ。
その昔から学生運動、ロック、パンクス、古着ブームと、若者たちのムーブメントと連動してきた高円寺だが、一度ハマると抜け出せない沼的な魅力があるという。知る人ぞ知る、高円寺のディープな世界を知るべくお話を伺ったのは、高円寺北中通り商店街でリサイクルショップ『素人の乱』やゲストハウス『マヌケ宿泊所』、バー『なんとかBAR』などを営む松本哉(まつもと・はじめ)氏。学生時代を高円寺で過ごしたという当サイト編集長、長崎も加わり、新旧高円寺ラバーたちによる、リアルでディープな高円寺トークをお届けしよう。
お話をお伺いした、松本哉(まつもと・はじめ)氏。
――松本さんが高円寺に住み始めたきっかけは?
松本氏(以下M):大学時代、キャンパスが市ヶ谷だったので高円寺には友達が住んでいて、よく飲みに来ていました。卒業後しばらくして、当時高円寺に住んでいた『途中でやめる』というファッションブランドのデザイナー、山下陽光氏とリサイクルショップを開くことになり、せっかくやるならただ商売するだけじゃなくて、変な人たちと面白いことができそうな街
がいいなと思っていて。中央線沿線の中野から吉祥寺辺りで物件を探したんですけど、やっぱり高円寺がダントツでしたね。高円寺北中通り商店街に空き店舗が多いと聞いて、商店街の会長さんに物件を紹介して欲しいって言ったら「こんなとこでやっても絶対上手くいかないよ」って止められて(笑)。でも、どうしてもここが良いって言ったら「家賃いくらなら払えるの?」って聞かれたんです。相場12~3万の広さだったんですけど、そういうことまだ知らなくて「5万円くらい」って言ったら、「そんなに出せるのか? 大丈夫か?」って心配されて。契約も何にもしてないし、僕の苗字しか知らないのに「よし分かった! 」ってその場で鍵をくれたんです(笑)。
長崎(以下N):それ分かるわ(笑)。そういう空気感が高円寺にはあるよね。
――不動産屋すら入らないってないということは、頭金とかは払ったんですか?
M:前家賃の5万円払っただけです。近々取り壊し予定の物件だったのもあるんですけどね。僕や一緒に開業した奴も友人が多かったので、店を始めたら大勢の人が来るじゃないですか。それを商店街の人たちが喜んでくれて、大家さんが「あっちの物件も借りた方がいいよ」って言うし、商店街の人たちも大家さんに「もっと安くしてやれよ」とか言ってくれて(笑)。どの物件も、すごく安い値段で直接貸してくれるので、一気に5~6店舗くらい増やしていったんですよ。今は4店舗しかやっていないんですが、「8号店」としているのは、1号店が引っ越して2号店になってるだけで、「すごい勢力だな」って誤解させるインチキみたいなもんですけどね(笑)。
N:僕が住んでいた40年くらい前も、紹介とか口コミで大家さんと直接やってたけど、未だにそのスタイルが変わってないってことだよね(笑)。
M:そうですね。そういうエリアはまだいっぱい残っていると思います。