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2015.11.25

vol.8 TOKYO TASTY
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“アブサン”というお酒を知っているだろうか。その名前から怪しいイメージを持っている方も多いだろう。それもそのはず。原産国のスイスやフランスをはじめとする欧米諸国では主成分であるニガヨモギの香味成分のツヨンが幻覚作用を引き起こすとされ、およそ100年近くも製造が禁止されていたのだ。その後、1981年のWHOによる規制緩和により製造が復活したが、スイスやフランスで正式に復活したのは2000年代に入ってからであり、日本でこれらの国から多くの種類のアブサンが輸入できるようになったのもごく最近のことなのである。
アブサンは感情やインスピレーションを引き出す霊酒として芸術家たちに愛飲された。アブサンを好んだ“アブサニスト”には画家のゴッホやレートレック、詩人のヴェルレーヌをはじめピカソ(画家)やヘミングウェイ(作家)、モネ(画家)、ドガ(画家)、太宰治(小説家)、マリリン・マンソン(ミュージシャン)など多くの著名人がいる。彼らはアブサンにより時に心身に異常をきたし、人生を破滅させたとまで言われているのだ。
そのバックグラウンドや愛飲家を知れば知るほど怪しげな魅力に溢れたアブサンだが、ぜひとも本物のアブサンを飲んでみたい。
そこでアブサンを日本一(70~80種類)揃える恵比寿のBar Tramにちょくちょく顔を出す筆者がTOKYOWISE編集長と特に酒好きの編集部員3名を招集し、Tramの厳選アブサンを飲み比べする“アブサンツアー”を決行した。

3種のドリップ、4種のアブサンカクテルを試飲


とある平日の20時過ぎ、筆者を除く全員が二日酔いという状況(やる気あんのかい!)でBar Tramの円卓に着席。試飲したのは、Tramおすすめのアブサンを使ったカクテル4種「ザ・スマグラー」「ヴァン・ゴッホの破滅」「アブサン・ソニック」「アブサン・モヒート」と、原液に水をポタポタと落として飲むドリップ3種「マンサン」「シャルロット」「バタフライ・エフェクト」。
まず、数あるアブサンの中からTramが初心者の方にもおすすめしているドリップ3種から紹介しよう。

Mansinthe(マンサン)・・・ミュージシャンのマリリン・マンソンプロデュースのアブサン。薄いグリーンのミディアムタイプ。比較的クセがなく飲みやすい。

Absinthe la Charlotte(シャルロット)・・・ハーブ感強め、アルコール度は低め。フレンチアブサン。華やかで豊かな香り。飲み応えあり。

Butterfly Effect(バタフライ・エフェクト)・・・ビター感強め。大人な味わいにより、やや中級者向けかも?

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そして、一番人気のマンサンをベースにしたアブサン・カクテル4種がこれだ。

The Smuggler(ザ・スマグラー)
[マンサン(アブサン)、ガリアーノ、ジンジャーコーディアル、オレンジ&レモンジュース、オールスパイス]
“お酒を密造する人”という意味。「もしも今でもアブサンが禁止されていたならば、こんなふうに(オレンジジュースなどに混ぜてお酒を飲んでいることがバレないように)飲むだろう」という仮説を元に作られた。(実際に禁止されていたころオレンジジュースなどに混ぜて飲まれていた)

Van Gogh’s Downfall(ヴァン・ゴッホの破滅)
[マンサン(アブサン)、ジン、オレンジシロップ、レモン、卵白、アーモンド、シナモン]
真のアブサン好きからすると(香りが飛んでしまうので)邪道とされる火を付ける飲み方をあえて皮肉としてすることで破滅をイメージしている。(実際に火をつけているのはシナモンで、香りを楽しむことができる)

Absinthe Mojito(アブサン・モヒート)
[マンサン(アブサン)、フレッシュミント、ライムジュース、砂糖、ソーダ]
モヒートをアブサンでアレンジしたもの。アブサンとミントの相性が抜群でさっぱりとした飲み口。

Absinthe Sonic(アブサン・ソニック)
[マンサン(アブサン)、ソーダ、トニック、ライム]
ジントニックをアブサンでアレンジしたもの。アブサンを身近なカクテルとして作ることで飲みやすく提供している。

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編集部員それぞれのベスト・アブサンは?


さて、これらを試飲し、それぞれのベストアブサン・ドリップとカクテルをチョイスし、その感想を語り合った。
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M氏(40代男性) /
ドリップ:バタフライ・エフェクト
カクテル:ヴァン・ゴッホ
アブサンのイメージや興味の持ち方って、ゴッホやロートレックなんかの19世紀末の画家や詩人のエピソードが一般的かと思いますけど、自分の場合は「ヴァンパイア映画」でした。インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年)で、トム・クルーズがアブサンを飲ませた少年の血を吸うシーンがあって、あれ以来アブサンって一体何なんだろう?と。ヴァンパイア映画にアブサンの登場率けっこう高いです。端から見てると、アブサンを飲む行為って怪しく映りますけど、オーセンティックなバー文化の一つとしてこれからも残り続けてほしいですね。味は正直、いつもそこそこ酔ってから飲むので分かりません(笑)。ただ、苦味と後味がクセになるのは確かです。最初は一口でいいんだけど、また口をつけてしまう。その連続です。やっぱり美学や信念を持ってる男友達と、バーのカウンターで一緒に並んで飲みたい酒ですね。アブサン自体に物語や経緯といった文化が息づいてるので、資本が入ったそのへんの酒とはワケが違う。デート酒には向いていないと思います。女の子にはパフォーマンスに映ると思いますし、逆に教えたくないですね。

K氏(30代女性) /
ドリップ:マンサン
カクテル:アブサン・モヒート
まず、アブサンのことをスピリタスだと当日まで勘違いしておりました。チェコかどこかのおみやげで(スピリタス)をいただいたことがあって、小瓶だから一気飲みしちゃえと思い、飲んだら、翌日動けなくなったことがあります。よって、かなり強いお酒だと記憶していたのですが、(アブサンは)飲んでみると、想像した以上にマイルドで 原液?のマンサンは、五臓六腑にぐわーっと染み入る感じでしたが、甘い飲み物、食べ物が総じてニガテなので、甘みを強く感じました。でも、それはいやな甘みではなく、あの空間の妖艶なライト具合もあいまって、いい感じでした。普段は、ハイボールが好きで、飲みだしたら、そればかり飲みます。その心を歌に例えますと、東京事変の「お祭騒ぎ」という曲が一番近いです。先日のアブサンナイトは、二日酔いの迎い酒ということもありまして、ゆったりでしたが、同じく、音楽にたとえますと、椎名林檎さん名義の「おこのみで」という曲が脳内では流れていました。しっとりとした感じの歌詞とメロディです。それぞれ、もし、海外の曲にたとえるとしたら、イギリスのエラスティカの ハイボール⇒Connection アブサン⇒Da Da Da になります。Mさんから、デート酒には向いていないというご意見がありましたが、同氏がおっしゃるように、たしかに、一般的には、男⇒女だと、パフォーマンスに映ると思います。でも、偏った意見かもしれませんが、私自身は、好きな人がいいと思って、その人が連れていってくれるならとても幸せなので、女性側の意見としては、「アブサンデートも、全然アリだよ!」とお伝えさせていただきます。笑

T氏(30代男性) /
ドリップ:シャルロット
カクテル:ヴァン・ゴッホ
アブサンというと、漠然と “ゴッホ” や “幻覚が見える酒” という程度の恥ずかしいくらい浅い知識しか正直ありませんでした。その幻覚説は、都市伝説である事がお店の方の説明で明らかになりましたけど(笑)。 今回の試飲会で初めて口にしたその味と香りは、なんとも言えない苦味の中に、鼻からぬける色気のある香りがとても印象的でしたね。それだけではなく、どこかに男臭いハードボイルドな雰囲気も持ち合わせるあたりも、まさにイメージ通りのお酒でした。きっと、うっすらとでも聞いた事のあるアブサンにまつわる話が、そういった感覚を覚えさせてくれたのだと思います。個人的には「シャルロット」が1番好みでした。他の2つと比べ、完成するまでの仕事の細かさが最も感じられたとともに、口の中が少し痺れるのが僕のイメージするアブサンを飲んでる感覚と重なり楽しめたことがおすすめの理由。個人的には賑やかな環境で飲むよりかは、静かな暗いバーで、色々なことに思いを馳せながら一人で飲みたいお酒かなと。

編集長N氏(60代男性) /
ドリップ:シャルロット
カクテル:ヴァン・ゴッホ
いろいろと飲んだ上での結論ですが。
シャルロットがベストチョイスでした。フレンチアブサンらしい香草感強目な印象でした。やっぱり、19世紀の芸術家が溺れた気分を味わえるのはこれかな、と。
で、カクテルはヴァン・ゴッホ。そりゃあ彼もアブサン中毒だった説があるだけに、街の風景も極色彩に見えてくるのではという、淡い期待もありつつ痛飲。
いずれにせよ、アブサンの酔い方は普通のアルコールとはちょっと違って、なんと言うか”浮遊感”のようなものが生まれるようでした。

ちなみに、硬派なイケメン店長T氏のベスト・アブサンは、シャルロットと同じ蒸留所で作られるフランスでのアブサン解禁100年を記念したボトル「Absinthe du Centenaire」だそう。なるほど、ジャケットもさすがアートの国フランスらしくシンプル(そのへんのクラフト紙でぐちゃっと包んだような)だけど存在感ありますね。イラストもクール。これはぜひ飲んでみたい。 s_limitededition2

アブサンを勧める相手の見極め方


さて、今回のアブサン飲み比べで判明した事実がいくつかある。まず、女性はよりクールでさっぱりとしたテイストを好み、男性はエレガントで華やかな香りを好む傾向にあるということだ。アブサンを嗜むとき、人は実に異性とデートするときと同じ気持ちになるのかもしれない。(興味がある相手にアブサンを選ばせたら、その人のタイプがわかるかも!)
あと、男性が最初のデートで女性にアブサンを飲ませるのはありかなしかという論議だが、まずは女性のタイプを見極めた方がよいというのが店長Tさんのアドバイスでもある。Tramはカフェ営業もしており食事も出す比較的カジュアルな雰囲気のバーなのでデート向きだし女性の一人客も多いが、やはり最初のデートでいきなりアブサンを勧められたら不審に思う女性もいるかもしれない。Tramは恵比寿という場所柄やPRのされ方(マリリン・マンソンプロデュースのマンサンなど)からファッション、メディア関係者、ミュージシャンやアーティストなどユニークな職業に就く人が常連客に多いという。相手の女性が音楽(マリリン・マンソンに限らず・・)や詩、アートに興味がある人ならば、喜んでもらえる確率は高いと思う。だが、お酒があまり強くなくて例えば普段カシスオレンジしか頼まないような巻き髪の女性にアブサンの歴史や魅力を語るのはやや引かれる可能性もあるので控えた方がよさそうだ。

筆者をTramに連れてきてくれたのはハードコア好きなかつての恋人だったが、自身も大の音楽好きだしイエガーマイスターやペルノなどの薬草酒が好きなのですぐにハマった。(でも“人間アブサン”って言われちゃうくらい変わり者?なので参考にならないかも)
アブサン好きの筆者が編集長や編集部員をTramに誘ったのは(もちろん記事の視察ということが大前提だが)、皆でアブサンを楽しみ、その酔いを共有して単純に仲良くなりたかったからなのだ。自分よりずっと経験や知識が豊富な先輩編集部員たちとまだ話すのに緊張してしまうのだが、「アブサンを飲めばきっと打ち解けられるはず」と企んだ。
そのねらいはバッチリ的中。二日酔いの人ばかりということで最初は多少不安だったが、7種類のアブサンを飲み干すころにはすっかり気分は高揚し、仕事で招集された席だったが編集長含め全員で二軒目のバーに移動し、改めて乾杯するに至った。

アブサンとは、緊張する相手であってもくだらないことでバカみたいに笑えるくらいには、マリファナのような作用があるのかもしれない。気になる方はなるべく早めに飲んでおいた方がいい。また禁止されるかもしれない前にね!

(text:Nao Asakura)
(Photo:Shinsuke Kamioka)

取材協力:Bar Tram
渋谷区恵比寿西1-7-13−2F
03-5489-5514
http://small-axe.net

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