2015.11.28
小皿にちょこっと盛り付けるだけで、どんな料理も一気におしゃれに見える。インスタ映え効果もあり、和食器を買い集める人が今増えているという。かくいう私も和食器のほっこりした佇まいに魅了された一人で、折をみて買い足してはいるものの、何を買えばいいか意外と悩むことも。100均食器は論外としても、できれば伝統文化に裏付けされた“本物”を手に入れたい。
そこで思い出したのが、数年前に訪れた日本民藝館のミュージアムショップ。日本民藝館は柳宗悦氏が蒐集した各地の民藝品を収蔵・展示する美術館で、日常の美である“用の美”に触れられる絶好の場所だ。古民家の風情が残る建物も素晴らしいが、展示の最後に訪れたショップの品揃えの豊富さが印象に残っており、どうせならいいものを選ぶ審美眼を養おうと、芸術の秋にかこつけて久しぶりに足を運んでみることにした。
目黒区駒場の閑静な住宅街の一角に存在する日本民藝館。老舗旅館のような木製の引き戸を開けると、木造建築では珍しい吹き抜けの空間が広がる。大谷石が敷き詰められたエントランスで靴を脱いであがるのだが、これがまた人様の家に上がらせて貰うようで趣深い。足の裏に残る石の柔らかい感触も印象的だ。
1階と2階からなる展示室には、陶磁、染織、木漆工、絵画など、古今東西の諸工芸品約17,000点の収蔵品のうち、約500点あまりが整然と並べられている。とはいえ、美術館にあるような緊張した雰囲気はなく、障子を通して入る外光が素朴であたたかい。どこか懐かしい空気が流れ、ベンチに腰を下ろして息を深く吸い込めば、一瞬にして心地良さを体いっぱいに感じることができる。
学芸員・古屋真弓さんのお気に入りスポットのひとつが階段の「手すり」だという。現代に生きる私たちにはちょっと低く感じられる高さと、時代とともに磨きこまれてきたかのような艶やかな質感、装飾はほとんどなく「用の美」を体現している手すりだ。
実のところ、初めてここを訪れたときには「なんだか、おばあちゃんちにありそうなものばかりだな」なんて不躾なことを思ったが、それもあながち間違いではなかった。そもそも民藝品とは「民衆的工芸品」のことで、一般の人が日々の生活の中で必要とするもののことをいう。鑑賞のための華美な装飾や過剰なデザインを排し、普段の生活で使うことを目的とした物たちの巧まざる美しさを見出した柳氏はやはりスゴイな、と今になって思う。
さて、本日の密かなお目当てであるミュージアムショップに到着。今回初めて知ったのだが、このミュージアムショップ、正式名称を「推薦工芸品売店」といい、陶磁器をはじめ、ガラス製品、かごや和紙など、全国から集められた新作工芸品を販売している。陶磁器は大分県の小鹿田に代表される九州の諸窯、山陰や益子、沖縄など伝統的な産地で作られたものほか、個人で仕事をする作り手のものも。自身が秋の味覚を盛りつけるのに選んだ食器は、島根県にある出西窯の丸鉢で、柳宗理氏ディレクションによるもの。柳宗悦氏をはじめ、バーナード・リーチ氏、河井寛次郎氏などから指導を受ける中で独自の作風を確立した出西窯の器は、シンプルで美しく、どんなジャンルの料理にも合いそうだ。そして、TOKYOWISEの料理番長に秋野菜たっぷりのシチューを作ってもらったのがこれ。
さすが、使ってこそ輝く“用の美”。これからはぜひ経年変化も楽しんでいきたい。六本木で芸術鑑賞もTOKYOっぽいが、たまには幾世代にも渡って使われてきた民藝品を眺めながら、ひとつのものを長く、大切に使っていくという暮らしそのものの美しさを学ぶのも、いい秋の過ごし方ではないだろうか。