2015.01.08
中目黒は今や若者の住みたい街ナンバーワンだそうである。しかしお隣の駅、祐天寺へ来ると、拍子抜けするくらい雰囲気がガラリと変わる。街の名物といえば、カレーがミニSLに乗って運ばれてくる「ナイアガラ」。地方に来たかと錯覚するほどのどかだ。
そんな祐天寺だが、夜になるとぐっとおもしろい街に変貌する。だいたい夕方5時頃にオープンし、深夜の12時、1時まで営業している古着屋がやたらとあるのだ。それはどうやら、祐天寺界隈には美容師や業界人が多く住み、彼らが仕事帰りに寄れるよう変則営業をしているという。
とはいえ、どうしてこんなに多いのか。その答えを探るべく、深夜の古着屋ツアーを決行。「仕事帰りによく寄りますよ」という、美容師の“ハラちゃん”(祐天寺勤務&学大在住)を連れて、いざ出発。
まず向かったのが、古着屋の集まるYUTENJI STREETとは別の栄通り商店街に2012年にオープンした「KATACHI」。スタイリッシュでクールな古着が並ぶ、今祐天寺でいちばん勢いのあるお店だ。
「年代やジャンルを問わず、ストリートやモード、ヴィンテージとデザインものといった境界線を排除し、純粋に今ファッションとして着られるものを海外から買い付けることをお店のコンセプトにしています」と語るのはスタッフの浦田詠司さん。なるほど。それが古着屋らしからぬセレクトショップのような雰囲気を醸し出しているのか。
「ここには、シャツを探しにくることが多いです」とハラちゃん。今日も派手すぎず地味すぎない絶妙な色味のチェックシャツが気になるよう。
KATACHIがオープンした頃、すでに祐天寺は深夜営業の古着屋がある“ちょっと不思議な街”だったという。仕事終わりにふらりと寄れる、そのゆったりとしたスタイルに憧れて、お店の場所を祐天寺に決めたそうだ。
「お客さんは近所の方も多いです。世間話しつつ、お酒を飲んだ後でも立ち寄ってゆっくり洋服を見ていかれる方もいますね」と浦田さん。そのいい意味で力の抜けたスタイルが、このお店のセレクトする古着にもよく表れている。
KATACHI
東京都目黒区祐天寺1-22-4 クレールAI 101
TEL:03-5773-5090
OPEN:17:00-25:00
続いて向かったのは、2006年にオープンした「Varde77」。オリジナルのブランド「Varde77」とともに、古着を取り扱っており、祐天寺の古着屋では老舗に位置するショップだ。
「自分の力で店に人を引っ張って来たい、そういう想いがあって、すでに栄えていた中目黒ではなく、当時は難しい場所とされていた祐天寺を選んだ、とオーナーから聞いたことがあります」と語るのはスタッフの呉瑛久さん。
Varde77の古着は、ビンテージはもちろん、変わり種のものもよく揃っている。それは、アメリカで古着のバイヤーをしていたオーナー自身が、他の人が気づかない洋服の魅力を感じて、価値を見出しているからだという。ハラちゃんも「ここにはおもしろいものがある」と、ワクワクした表情でお気に入りを物色中。選んだのは、まさかの呉さんとモロかぶりジャケット(笑)。
呉さんに祐天寺の魅力を聞いてみると、「店の前は団子屋でその隣はうなぎ屋。パジャマで出歩けられるようなホーム感がいいですよね」とのことである。
Varde77
東京都目黒区祐天寺2-3-11-1F
TEL:03-3711-1947
OPEN:月〜土17:00-25:00、日15:00〜23:00
3軒目は2005年にオープンの「TRAMPOT」。古い民家を居抜きした店内、看板はなく、ランプに改造されたヘアドライアーが目印のお店。おそらくここが、祐天寺で深夜営業を始めた最初の古着屋だろうと思い、オーナーの竹田弘さんに尋ねてみた。
「現在あるお店では、うちがいちばん古いですね。もうなくなってしまいましたが、最初に始めたのはAMEINU-YAだと思いますよ」と竹田さん。自身は祐天寺に実家があり、30年ちかくこの街で暮らしてきたのだが、この竹田さんの話で思い出した。現在は「feets」という古着屋がある場所に、確かに深夜まで営業していた古着屋があったのだ。とはいえ、AMEINU-YAは、現在祐天寺にあるようなオシャレで独自の世界観を打ち出している古着屋ではなく、「CHICAGO」や「Santa Monica」のような、いわゆるどこにでもありそうなアメカジ古着の店だった。現在もなお、祐天寺のファッションシーンを先導するTRAMPOTは、なぜ祐天寺に店を構えたのだろうか。
「お店を出すにあたり、夜盛り上がっている街を探していました。よく駅前の大樽とかで飲んでいたんですが、祐天寺は夜のんびりしていて、妙な落ち着きのある街だと思いました。すごく居心地がいいんですよね。中目黒はごちゃごちゃしているし、学芸大学は女性色がちょっと強い。陸の孤島のような祐天寺に、僕はすごく魅力を感じました」。
そんな竹田さんが買い付けてくる古着は、アメカジは控えめに、オールドのモードブランドまでニュートラルなセレクト。ハラちゃんは「TRAMPOTではニットをチェックします。種類が豊富なんですよ」とのこと。
「『ばん』が近いんで、飲んだ帰りにふらりと寄ってくれるお客さんも多いですね」とスタッフの石坂敏康さん。余談になるが、もつ焼き「ばん」は酒飲みの中では言わずと知れた有名店だ。
TRAMPOT
東京都目黒区祐天寺2-6-10
TEL:03-3792-5295
OPEN:16:00-24:00
最後にもう一軒。祐天寺の駅から少し離れ、学芸大学との間に位置するarcheo logie。もともと渋谷にあったお店が2011年から祐天寺に移転。「深夜に動く街を探していて、祐天寺だと思いました。この界隈は、ファッションを知っている人が多いなと実感しています」とオーナーの熊谷さん。
この界隈の古着屋にしては広めの店内に、驚くほどたくさんのアメカジ古着が並ぶ。ワーク、ミリタリーといった定番アイテムを中心にスケート、サーフやロックなどのカルチャーものも揃っており、見ているだけでも十分に楽しい。「帰り道にあるから、ついふらりと寄っちゃいますね」とハラちゃん。
深夜営業をしていると、酔っぱらいとか困ったお客さんも多いのでは?の質問には意外な答えが。「うちはお客さんにはコーヒーを出しています。酔いを覚ましながら、ゆっくり洋服を見てほしいですから」と熊谷さん。祐天寺の古着屋は自由気侭すぎる。ここまで来ると、もはや洋服がたくさんある友達の家だ。
archeo logie
東京都目黒区中町2-48-25 サンハイム祐天寺101
TEL:03-6673-5342
OPEN:月〜金15:00-25:00、土日祝13:00-22:00
なぜ、祐天寺には深夜営業の古着屋が多いのか。その答えは謎のままだが、おそらく渋谷や原宿、下北沢にはない独自の文化とのどかな空気感が、訪れる人を魅了し、人を引き寄せている街なんだろうな、と思う。品はあるが決して気取っていない。急行が止まらなくても、スタバがなくても、深夜の祐天寺は愛すべき街なのだ。