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2015.02.10

vol.4 TOKYO Midnight
Mignidht_Bus_topimage

東京という街には、終電後に都心と郊外を結ぶ交通網がある。
郊外に住む東京人の強い味方、深夜急行バスだ。
深夜バスといえば、通勤や通学で使われているような路線バスで、通常運賃より少し高めの料金で23時以降に運行されているもの。
中でも、深夜急行バスや深夜中距離バスと呼ばれるものは、東京や新宿、渋谷、池袋、新橋、品川などの都心の主要駅から郊外の都市まで、終電が出た後に運行されている。
タクシーに比べかなり安い料金で自宅の最寄り駅まで帰れるのが魅力だ。タクシーなら深夜料金で2万以上かかってしまうところでも、3000円ほどで帰れる優れもの。
言ってみれば、飲み会やデートで終電を逃したり、残業で遅くなった人たちの助け船だ。
12月の忘年会シーズンや3〜4月の歓送迎会シーズンは特に混雑する。
足元おぼつかない酔っ払いが多数出現するのもこの時期。
酔っている人、残業疲れの人・・・
疲労感満載の東京人を乗せて深夜バスは郊外へと向かう。
中でも、高速道路を通るような深夜急行バスでは、それなりの中距離ということもあって、悲喜交々、様々なドラマが生まれる。そこはノンストップの空間。トイレがついていない。トイレ休憩もない。
乗車時間が1〜2時間ほどの中距離であっても、飲んだ後に利用する人たちが多い深夜急行バスでは、様々な事件が起こる。
仕事がら週3〜4ペースで深夜急行バスを利用していた神奈川在住の私が、リアルに体験した事件簿の一部をお届けする。


−事件簿その1 泥酔客の醜態−

その日、いつものように深夜急行バスを待つ列にならんでいた。
仕事で遅くなってのことだった。
疲れ切って、車のクラクションやら人の声やらが混ざり合う駅前の雑踏の中でボーッとバスを待っていると、
突如、激しい流水音が耳に飛び込んできた。

ジャバジャバ

雨でもないのに何の音だろうと後ろを振り返ると、
なんとそこには、列に並ぶ真後ろの男が立ちションをしているではないか!!
しかも丸見え状態で。。。

ひえーっ!!!

思わず叫んで前に避けた。
まわりの人も事態に気づき、うわーっと避ける。
しかし、その男は、おぼつかない足元ながらも、
まるでトイレにでも入っているかのように動じることなく用を済まし、そのまま列に並んでいたのである。

できることならその場から逃げたかったが、列を外れることはできなかった。なぜなら、既にバス停留所の整理員から
「今夜のバスは大変混み合っているとの情報が入っております。
お乗りになれない場合もございますので、ご了承ください。」
とアナウンスがあったからだ。
まわりの人も、明らかにその場を離れたい様子だったが、誰も列から外れることはない。

ここはトイレじゃないぞ!

一言文句も言ってやりたかったが、
かなりの酔っ払いで逆に絡まれても怖い・・・。
結局何も言えず、
仕方なく彼を避けながらなんとか来たバスに乗車したのだった。

その後、ギリギリ乗車できたバスの補助席で崩れ落ちて寝るその男が、左右の人たちにさらに迷惑をかけていたのは言うまでもない。

恐怖の夜だった。

s1.にょう


乗車心得:お酒は飲んでも飲まれるな。
     トイレはちゃんとトイレでしましょう。



-事件簿その2 携帯盗まれる-

自業自得の携帯紛失、重ねること数回。
いずれもGPSを使用した携帯検索サービスとバス会社の忘れ物対応に助けられ、 もう携帯は忘れまいと心に誓った、
その日から数日後の出来事。

わたしはバスに乗車してから、友達とLINEのやりとりをしていたが、
揺られるバスの心地よさに少し眠くなり、いつの間にやら眠りの中に誘われていた。
気づくと、そこは降車駅だった。
バスを降りてすぐに携帯がないことに気づく。
すぐに乗っていたバスに戻り、運転手さんに謝りながら携帯を探すも、 あたりを見回せど、携帯らしきものは見当たらない。
もしかしたらバッグの中にしまったのかなと思い、結局バスを降りて家路に着き、バッグの中を探してみるが、やはり携帯がない!
慌てて携帯検索サービスで探してみるが、なんとこの日に限って携帯の充電がおちているではないか。。
もはや探す術もなく、バス会社へ問い合わせてみるも見つからず、結局警察へと紛失届を提出したのだった。
思い返してみると、この携帯、どうやら眠りこけているわたしの手元から盗まれたらしい。
その後、半年以上の月日が経ち、すっかりこの出来事は記憶の中から
忘れて去られていたある日、一通の手紙が警視庁遺失物センターから届いた。携帯を預かっているので取りに来るようにと。

なんとこの携帯、紛失から7ヶ月という月日を経て、わたしの手元に戻ってきたのだ(いまだに謎)。

余談だが、戻ってきたこの携帯、盗んだ人がパスコードロックを試しすぎたらしく、壊れていた。
戻ってきたから、ま、いっか!

s1.携帯取られる


乗車心得:バスに乗ったら、眠る前に、大事なものはバッグの中にしまいましょう。



-事件簿その3 残りの一席を譲り、夜の闇へと消えていった紳士-

その日、いつものように深夜急行バスを待つ列に並んでいた。
とても寒い夜だった。
忘年会シーズンで、わたしが停留所に着いた時は既に長い行列ができていたため、これは乗れないかもなと思った。
高速バスは、乗車人数が定員に達すると乗れなくなってしまう。混んでいる時は、補助席も使って満席になるほどだ。
案の定、バスが到着する前に、停留所の整理員からアナウンスがあった。

「今夜のバスは大変混み合っているとの情報が入っております。
これより先の方々は乗れないかもしれませんので、ご了承ください」


やはり、そうか・・・

乗れなかったら仕方ない、

タクシーで帰るか、
2万円以上かかるけど(泣)。

そう思いつつ、もしかしたら乗れるかもという少しの望みをかけて列んでいた。
数分後、予定時刻より大幅に遅れてバスが到着した。
車内をみあげると、みるからに混雑している。
バスに一人、また一人と乗車していくが、あきらかに残りの席は少なかった。
そして、わたしの前に並んでいた男性が、なんと最後の座席確保者だった。
一足遅かったか・・・なんとも言えぬ敗北感がわたしを襲った。
そんな矢先、前にいた男性がくるりとこちらを振り返り、ぼそっと言った。

「最後の一席なんで、どうぞ乗ってください」。

え??

え?!?

いや、悪いですよ、

いや、いいんですか?!

さすがのわたしも面食らい遠慮した。
しかし、その男性は、男に二言はないという風格で、

「いや、ほんとにどうぞ、僕は男なんで。」

そう呟くと、さっそうと夜の闇へと消えていった。
なんという男気のある人だったのか。
譲ってくれたその真意は不明だが、そんなどこの誰かもわからぬ紳士のおかげで、わたしは暖かなバスの中でぬくぬく夢見心地で家へと帰ったのだった。

余談だか、真冬にタクシー待ちをしていたわたしに
コートを貸してくれた男性もいた。
素晴らしき日本男児、あちこちにあり。

s1.紳士男性


乗車心得:男気ある男性に優しくされたら、素直にその気持ちをいただいて、心からお礼をいいましょう。


遊びに、仕事にと、深夜まで謳歌する東京人。
そんな東京人の助け舟は、今宵もどこかで新たなドラマを生んでいるかもしれない。忘れ物と寝過ごしは自己責任(失笑)。空いている時期はゆったり座れて帰れるのでとても便利だが、忘年会や歓送迎会シーズンは満席で乗れないこともあるので気をつけよう。ちなみに、深夜急行バス常連の私のおすすめシートは、一番前の運転席の真後ろの席。揺れも少なく、すぐに降りることができて、何かあっても安心なのだ。なお、多くのバス運行会社が、土日・祝日・お盆・年末年始にかけては運休となるので、ご利用の際にはご注意を。

(Text: Yuriko Bailey)
(Illustration: やっぱりぱんつ<やっぱんつ.com>)

http://www.tokyobus.or.jp/midnight/midnight_index.html

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