2015.01.27
東京の深夜生活事情を語る上で欠かせないのは、やはりテレビ。そして、東京の深夜テレビといえば、今やテレビ東京の存在なしには語れない。ゴッドタン、ざっくりハイタッチ、孤独のグルメ、俺のダンディズム…バラエティ・ドラマからアニメまで、時間を忘れ、夢中にさせてくれる番組の豊富さと面白さは、ずば抜けてピカイチだろう。他局ではとうていありえないような驚くべき試みを次から次へとド直球で仕掛けてくるその有り様は、時として若干乱暴にも見えることもあるけれど、とにかく面白いから致し方ない。いつの間にか画面に釘付け状態になった我に返る時、テレビ東京の深夜番組が持つ“引き込み魔力”に心底敬意を払わずにはいられなくなる。またやられたわ、凄いわ、本当に、とつぶやきながら。なぜ、テレビ東京の深夜番組は面白いのか? そんな素朴な疑問を胸に、今回は、同局制作局プロデューサー・高橋弘樹氏を訪ねてきた。
東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年テレビ東京入社。制作局所属。近年は「家、ついて行ってイイですか?」「吉木りさに怒られたい」「美しい人に怒られたい」「空から日本を見てみようplus」「ワーキングデッド〜働くゾンビたち〜」などのプロデューサー・演出の他、ドラマ「文豪の食彩」では監督も務める。著書に「TVディレクターの演出術 物事の魅力を引き出す方法」(筑摩書房)、「ジョージ・ポットマンの平成史」(大和書房・伊藤正宏との共著)がある。
# “素人いじり”に賭ける愛、それはテレ東の伝統
──高橋さんが手掛けていらっしゃる「家、ついて行ってイイですか?」を観ていても感じることなのですが、テレビ東京の番組は、総じて“素人いじり”が絶妙です。これは、歴代、局として意識されてきたことだったりするのですか?
高橋弘樹氏(以下、高橋):僕が入社した頃から、そういう文化はあったと思います。「田舎に泊まろう!」や「愛の貧乏脱出大作戦」など、当時から素人さんに登場していただく番組はありましたし、僕自身、入社1年目は、「TVチャンピオン」という素人さんを集めて、競技大会を繰り広げるバラエティ番組にADとして携わっていました。
これは有名になる前のさかなクンも出演していた番組なんですが、毎週世の中のあらゆる事象をテーマに、その道の達人たちが真剣勝負をして、チャンピオンを決定するんですね。その様子をゴールデンタイムで1時間半見せるという企画でした。面白い素人さんを見つけてこようというのと、その人たちをよく見せようという意識は、当時から強くあったと思います。
© TV TOKYO
──「モヤモヤさまぁ~ず2」を拝見していても思いますが、ただちらっと出てくるだけじゃなくて、素人さんが魅力的に映るので、記憶に残るものが多い印象があります。
高橋:他局が素人さんを使わないわけではないですけれど、テレビ東京には、そこに対しての“愛”みたいなものがある人が多いのかもしれないですね。僕自身も、柳田国男や、宮本常一、宮田登などが好きだったり、ちょっと堅い言葉で言えば、元々、民俗学的なことや、“市井の人”を描くことに興味がありました。テレビ東京が素人さんを起用するのは、脈々と受け継がれてきた伝統と言ってもいいかもしれません。
でも、いちテレビ局として、なぜ素人さんを起用するかという元を辿れば、昔はお金(予算)がなかったからこその代替案だったと思います。タレントさんが出てくれない、豪華なセットが組めないとなると、街や大自然に繰り出して、すでにあるものを使って、いかに面白く見せるかを考える方向になってきます。すると、素人さんと必然的に触れ合う機会が出来てきますよね。
ちなみに、誤解を恐れずに言うと、タレントさんのテレビ東京に対するイメージって、以前はもっとひどかったと思うんですよね。今でもけっこうひどいかもしれませんが…(苦笑)。今日も湾岸にある某他局の某スタジオに打ち合わせに行ってきたんですが、同じ放送局とは思えないくらいに大きかったです。スケールもしかり、何もかもがやっぱり違うなと。しょうがないとは思うんですけどね(笑)。
#予定調和より、偶発性のある方がダンゼン面白い
──ちなみに、「家、ついて行ってイイですか?」は、“出たとこドン”なんですか?
高橋:そうですね。本当に毎日、夜11時くらいに街に繰り出して、ひたすら素人さんに声を掛けているんです。終電を逃した方に、「タクシー代をお支払いするので、家を見せてください」と。バイト終わりの大学生なども出てきますが、時間が時間ということもあって、OKをいただける方は、酔っ払っていらっしゃることが多いですね。
この番組のテーマは、“誰にでもドラマがある”じゃないですけど、やっぱり、人間って掘れば、何かしらあるんですよね。人間って、イチモツあるじゃないですか。その中でも、“外行き”ではない、素人さんの内面にグッと迫るような番組を作りたかったんです。ディレクターをやっていた頃に感じたことですが、「何月何日の何時にロケに伺います」と言えば、普通の人は家を片付けてしまいます。見られたら恥ずかしいものとかまずいものは押入れにしまって、僕たちスタッフを迎える体勢で臨んでくれるので、家の中でロケをしていても、見せてくれるのは“外向きの顔”だったりします。
ドキュメンタリーを除いて、バラエティで本当に素人さんの内部に迫る番組って、これまであまりなかった気がしていて、そこを崩してみたいなと。「家、ついて行ってイイですか?」に出演してくださる方たちの多くは酔っ払っていらっしゃるので、本音も出ますし、深夜いきなり伺うので、部屋を片付けることもできません。キューピーちゃんの人形とか、他人からしたら「なんでこんなものがここにあるの?」と思えるような不思議な物体が置いてあるのも、台所や風呂場が汚れているのも、そこには全部理由があって、その家にその人の人生すべてがそのまま表れている。つまり、その家こそが、その人の人生そのものという気がするんです。
──昨年12月7日放送の「家、ついて行ってイイですか? SP」では、司法書士の自宅にデーモン小暮のメイクをした奥さんがいましたよね?
高橋:あれを撮影したのは、ハロウィンの前日だったんですよ。奥さんはハロウィンのためにメイクの練習をしていたらしく、その最中にお邪魔したんです。司法書士の旦那さんも、予想外のことだったみたいで、めちゃくちゃ驚かれていましたよね。
──いやはや、東京のミッドナイトには、あんなことが起きているのかと。爆笑させていただきました。
長崎編集長(以下、長崎):素人さんの行き当たりばったり感とか、変に放送作家が作り上げていない現場の空気みたいなものを引っ張ってくるのが、抜群に上手いなと思います。実は下調べもバッチリの取材班がいるのに、あたかも偶然のように装いつつ…みたいなところがなくて、そういうダイレクトな感覚って、とっぽいなあと。「モヤモヤさまぁ~ず2」も、こんなにだらだらしてていいの? と見ている方が心配になるくらいのだらだら感がいいですよね。
高橋:あの親近感が持てる感じは、さまぁ~ずさん特有の持ち味があってこそだと思いますが、ああいう若者にも支持されるような番組をちゃんと局で作って、見られるようにしたのは、テレビ東京では久々というか、初めてかもしれないですね。伊藤さん(「モヤモヤさまぁ~ず」の総合プロデューサー)、すごいなと思います。
長崎:作家さんが練って、練って、作った感じがしないのがいい!
高橋:他の番組について語れることはあまり持ちあわせていないんですけど、僕が自分でやっていることに関して言えば、予定調和っぽい、脚本があるものよりも、偶然のアクシデントや時にトラブルとか、そういうものが面白い気がします。
今、テレビが放送されるようになって60年くらいでしょうか。昔は多分、何をやっても新鮮だったと思うんですけど、僕らより上の世代の人なんて、それこそもう40年、50年とテレビを見てきています。作る側がどれだけ「斬新でしょ?」って提示しても、斬新なものってあまりなくて、作りこんだものには、どこか“飽きちゃってる感”があると思うんですよね。最後の砦じゃないですけど、本当に人が驚いたり、びっくりするのって、偶発的なものになってくるんじゃないかなと。
「ゴッドタン」のキス我慢選手権が2013年に映画化されましたが、監督を務めた佐久間宣行プロデューサーも、「大まかなあらすじは一応あるけれど、劇団ひとりさんの演技はほとんどアドリブだ」と言っていました。佐久間さんもまた、育ちが「TVチャンピオン」なんです。ゴッドタンの人気企画“芸能人マジ歌選手権”や“ストイック暗記王”など、ヒット企画に“選手権”や“○○王”とつけるのあたり、TVチャンピオンっぽい血が流れているんじゃないかな、と思います。
NEXT > 業界の定説『ネットでの話題性と視聴率は反比例する』を打破した「美しい人に怒られたい」シリーズとは?