ウサ耳×ハーブを生かした本格メニュー カワイイだけじゃない『ニコラハウス』の正体  The Mystery of Nicolas House

2016.10.18

vウサ耳×ハーブを生かした本格メニュー カワイイだけじゃない『ニコラハウス』の正体  The Mystery of Nicolas House
top_tw20161017

原宿のカワイイ文化の一端を担うようなカワイイ度全開のカフェ『ニコラハウス』をご存知だろうか?原宿駅から竹下通りを抜けさらにまっすぐ、キャットストリートを少し渋谷方面に歩いていると、右手におかしな帽子を被ったフランス人の顔のフラッグがはためいているのが見える。『ニコラハウス原宿本店』だ。このフランス人は、ニコラハウスの料理人、ニコラ・シャール氏である。

s_R0023913


ニコラハウスとの出会い



「見た目カワイイ」というだけあって、ニコラハウスのメニューは、うさぎの形をしたライスがプレートの真ん中でニッコリの“お子様ランチ大人用”、カラフルなうさぎの耳がシュー生地から飛び出す“うさぎシュークリーム”、10層以上になるアイスやクリームなどのパフェの中からうさぎがお目見え“うさぎリエジョア”など、若い女の子が「きゃーかわいい!」と喜んで写メりそうなものばかり。

編集部のある原宿には来るのだが、「ニコラハウス」は私の目に入らず、ずっと素通りしていた。内装はアンティークの雑貨とキャラもののぬいぐるみがごちゃごちゃに混ざって置かれているし、「うさぎの耳」まで付けろという。内心私は全力で拒絶しながらも、そこはその場の空気を読みつつ、しぶしぶ装着したのだった。
cut_0211

実はこの居心地の悪い(私にとって)思い出となったニコラハウスに、その後何度も足を運ぶことになるのだが、その理由は、なんといっても料理の味だ。例えば、看板メニューのうさぎエジョリア。私は酒呑みでスイーツは食べないのだが、一口食べると「えっ」という驚きがあった。そう、このパフェには、ハーブが入っている。何層にもなるアイスやゼリーなどの素材に、バジルやエストラゴン、山椒※1 などといった、食感に意外なアクセントがあるのだ。しかも10層にもなっているので、スプーンを差し込む深さによって、味が何度も変わっていく。

「お子様ランチ 大人用」に関しては、この日は限定メニューの“ハーブとんかつ”をオーダー。子どもの頃から肉が苦手で、いつもはほとんど食べない私だったが、お腹もペコペコなので一口食べてみると、これもまた驚きの風味である。肉独特の臭みが絶妙なバランスで配合された数種類のハーブによって緩和され、むしろその肉らしささえも「おいしい」と感じるように仕上がっている。他の総菜も、素材ひとつひとつが丁寧に調理され、ハーブにによって最大に美味しく引き出されている。どれを食べても、際立って美味しいのだ。

cut_0199 レギュラーメニューの「手作り煮込みハンバーグ」。


料理研究家、ニコラ・シャール氏にインタビュー!



見た目がカワイイがために、逆にハードルを上げてしまっているニコラハウスが、私にはとってももったいなく思えた。こんなに美味しい料理なのに、なんでうさぎの姿を纏って、あたかも子どもっぽく振る舞っているのだろう。ならば、「ご本人に聞いてみよう!」ということで、ニコラハウスの看板料理人、ニコラシャール氏(以下ニコラ、敬称略)へ突撃インタビューを決行した。

──なぜ日本で料理人をされているんですか?

ニコラ: 18歳のときリヨンの広場で初めて日本人に会ったのですが、みんなとても親切で優しかった。相手のことを大事にする、という文化に惹かれ、自分はそこに行きたいと思ったんです。初めて成田に到着したときに不思議と違和感がなく、妙に落ち着いていたのを覚えています。自分のフィーリングが、とても日本と合っていたんですね。

cut_0015

──フランスで同じスタイルのお店をオープンしたら、お客さんはどんな反応をするでしょうか。

実は、それ考えたことあるんです。フランスでは日本の“かわいい”カルチャーが人気だから、「日本のカフェ」としてフランスでオープンしたら、成功すると思うね。

──「かわいい雰囲気のお店」と思って来てみたら「本格的な料理が食べられた」というギャップがお店の狙いだということですが、お客さんにその手応えは感じますか?

はい。とにかくみんな僕の料理やスィーツを食べて、「おいしい!」って言ってくれる。その驚きが僕は楽しいんです。もちろん、料理は二の次で、うさぎの耳(来店数によって種類がレベルアップする)を付けることを目当てに来るお客さんもいる。それはそれで、「楽しい思い出」が作ってもらえたらいいから、歓迎なんですけどね。

──私のように、「うさぎの耳つけたくない」って人はいないんですか?

いますよ(笑)。でも、みんな最後はつけて「パシャリ」とか記念撮影している。結局楽しんでる人が多いですね。


──ニコラハウスには、「大人になりたい、子どもでいたい」というニュアンスが感じられますが、ニコラさんはどうですか?

ハハハ。難しい質問だね。人って遊び心があった方が人生はうまくいく。まじめな大人だけだとつまらない。いつもまじめすぎず、色々な側面を持っていた方が、人は魅力的だと思うんだ。だから僕もいつまでも子ども心を忘れない大人でいたいと思っているよ。

──今がベストなんですね!これからやりたいことなどあれば教えてください。

料理はコミュニケーションのツールだと思っています。自分が母に料理を通じてたくさん愛情をもらったように、これからもハーブを使った美味しい料理を日本の人たちに伝えていきたいです。
cut_0131


大人が騙される“カワイイ”に秘められた”ホンモノ志向”



始終、満面の笑みで語ってくれたニコラ氏。取材対応以外は、大体お店にいて、個々のお客さんとコミュニケーションを取っている。実は、ニコラさんは一度日本のフランス料理店でシェフを任されていたが上手くいかず、フランスに戻っている。腕は確かだが、「ありきたり過ぎる」のと、日本人の舌に合わなかったのが原因だそうだ。その後日本に再訪日し、東京のパティスリーで働きながら、NHKフランス語講座の教師を務めているときに、今のプロデューサーと仕事を通じて出会い、お礼としてプレゼントしたキャラメルパンケーキがきっかけで、ニコラハウスをオープンすることになった。ニコラさんからは、日本人の私が恥じてしまうほど、日本に対しての敬愛の念と、人に対する熱い思いを感じた。“営業スマイル“かと錯覚してしまうほど徹底されたあの笑顔も、ホンモノなのだ。

私の周りには、“表現する”ことを生業にする人が多い。言葉も、絵も音楽も、料理も。「伝えたい」という強い気持ちがあれば、どんな形でも届く。子ども騙しならぬ“大人騙し”カフェニコラハウスは、意外にもそんなことを教わった場所になった。

(Text:Nao Asakura)
(Photo: Yuuko Konagai)

※1 パフェの種類によって使われているハーブは異なる。

TOKYOWISE SOCIAL TOKYOWISE SOCIAL