2016.08.17
大都会・東京には、ノスタルジックな雰囲気漂う浅草名画座、新宿昭和館をはじめ、35mmフィルムを上映する早稲田松竹や飯田橋ギンレイホール、デートやショッピングにも都合の良い立地にあるラピュタ阿佐ヶ谷、ユーロスペース、新宿シネマカリテ(系列の新宿武蔵野館は9月末まで一時休館)、目黒シネマ、吉祥寺プラザなど、たくさんのミニシアターがあるのをご存知だろうか。大型シネマコンプレックスが次々と誕生していく中で、なぜ東京ではこのようなミニシアターの人気が根強く残っているのだろうか?
ミニシアターの妙は作品セレクトにあり
娯楽の一つとして楽しまれてきた映画館シーンは大きな変換期を迎えている。私が幼い頃は、完全入れ替え制ではなかったり、二本立て、立ち見やオールナイト上映なんていうのもあった。しかし今は、3Dや4Dといった立体映像が楽しめる最新システムを導入したシネコン、オンラインで映画が楽しめるhuluやNETFLIXなどが普及し、ミニシアターの運営は容易ではない上に個性も求められている。今回は、東京のど真ん中・渋谷に位置するカルチャーセンター、渋谷アップリンクを運営する映画配給会社UPLINK(アップリンク)のクリエイティブディレクター大場さんにお話をうかがった。
「デジタル化が進んで、オンラインでも映画が楽しめるようになったことはポジティブに考えています。映画というエンターテインメントをより身近に感じられる今のデジタル環境はとても画期的だと思います。ただ、映画館には映画館の良さがあると思います。家にはない、大きなスクリーンや音響設備で作品を楽しめるのが醍醐味だと思いますし、そういう意味で映画への接し方のバリエーションが増えたのが今だと言えるでしょうね」
そういう前提に立った上で、どうミニシアターなりの差別化をしていくのだろう。
「40~60席ほどの小さいシアターなので、セカンドランの作品はロードショーで動員数が多いものや、女性の興味をそそる恋愛ものを上映してみたりもします。ただ、ミニシアターならではの作品セレクトこそが自分たちの個性になると考えています。代表の浅井が海外で買い付けをする際、関係スタッフと一緒にセッションをして、“アップリンクらしい” や “日本ではどんな反響があるか” などを話し合ったりしています。今はフィルムではなくデジタルでの上映が主流なので、以前とは違って幅広いジャンルの多くの作品を上映できるようになりました」
サブカル好きの私としては、以前から、音楽やアートに所縁のある作品を多く上映しているアップリンクのセレクトは興味大!最近では、覆面芸術家の仕掛けた宝探しドキュメンタリー『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』、ゲラッパでお馴染みのJBのドキュメンタリー(ミック・ジャガーがプロデュース)『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』などを上映していた。
特にミニシアターにはセカンドランよりも、独自の買い付け作品にこそ、“らしさ”を期待してしまうのだ。東京にあるミニシアターには、それぞれのコンセプトや表情がある。例えば、ラピュタ阿佐ヶ谷のホームページ、<ご挨拶>の文からは歴史と想いが感じられる。「小津、溝口、黒沢、成瀬を始め日本映画の堂々たる巨匠、名匠たちの作品をこの「文化都市」東京で上映している場所がない!(という驚愕すべき事実)」という一文には、この映画館を作った強い意志が感じられる。8月上映予定の中には、“昭和”をキーワードとした作品があったりもする。小さい規模のミニシアターは、個性や特徴を打ち出すことが必要不可欠であり、そこから選ばれた作品、そのセレクトこそが魅力なのだ。
観るだけじゃない東京ならではの映画の楽しみ方とは?
「渋谷アップリンクでは、3つのスペースで映画の上映やイベントなどを連日行っています。“映画を観る”だけに留まらず、ギャラリー、DVDや書籍などを販売するマーケット、1階には『タベラ』というカフェレストランを併設しているので、観るという目的以外にも映画カルチャーに興味を持っていただけるよう工夫と運営を心がけています」
映画を単に娯楽としてだけ捉えるのではなく、カルチャーとして考えるという姿勢がここにはある。
写真左:”タベラ”内観、写真右:マーケット
カフェで提供しているコラボメニュー。
写真左:『オマールの壁』アラブの伝統的なお菓子ハリーサとマラミーヤというお茶のセット / 写真右:『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』アメリカンウイスキーの代表格・ジャックダニエルのテネシーハニーを使ったカクテル
ふらっと立ち寄れる雰囲気のカフェは、ウェイティングスペースであると同時に、映画の余韻を楽しむ場所でもあるのだろう。
映画にどっぷりつかる
また、定期的に行われているワークショップは、映像クリエイターを目指す人のためになる&映画好きの人が楽しめるコンテンツもあり、幅広い世代・国籍を問わず多くの人が足を運ぶ理由は、ここにもある。こういった試みは、アップリンクだけではなく、イメージフォーラムなど幾つかのミニシアターで開催されている。
今も昔も、映画は最高のエンターテインメント!
「あの作品をもう一度!」
「映画を観て終わりじゃない!」
東京ミニシアターのアプローチと魅力とは、1本1本の映画に深い愛情が込められているところにあるのだと思う。そして、一人の映画好きとしてその姿勢に拍手を送ると同時に、映画本来の密かな愉しみ=暗闇で没頭する感覚を大事にしたいではないか、と(手軽に楽しめるDVDやオンラインも良いけれど)。
▪️渋谷アップリンク
▪️アップリンク自社配給の作品 9月10日公開『聖なる呼吸 ヨガのルーツに出会う旅』
▪️ラピュタ阿佐ヶ谷