2016.07.17
スッピンの「東京」とメイクした「TOKYO」
港区の外れにあるタワーマンションの高層階に住み始めた頃、夜が深まるたびにベランダに出ては、街々の光景を見渡しながらうっとりとした気分になっていたのが懐かしい。しかし1年半も経つと、もうそんなことは特別意識さえしなくなってしまった。
窓の外に広がっているのは、いつもと同じ場所からいつもと同じ輝きを放つ東京タワーやスカイツリーやレインボーブリッジであり、動きがあるのは首都高を流れるミニカーの群れ、線路を進む蛇のような新幹線、星を望めない夜空に時々過ぎ去っていく飛行機くらい。運河に架かった橋を歩く蟻のように見える人々がどんな服を着ているのか、雨がどれくらい降っているのか、ここからは何も感じない。
こんな日々を重ねていると、東京がまるで巨大なWebサイトのように見えてくる。丸の内や汐留のオフィスビルにはビジネスやマーケティング情報、渋谷や銀座の商業施設にはファッションやカルチャー、豊洲や勝どきのマンションには消費トレンド、六本木のレジデンスやラグジュアリーホテルには男女関係に関するコンテンツが詰まっているわけだ。
実際に街へ出ても、それらをクリックして中へ入っていく感覚はすでになく、スマホの画面をタップしてSNSの投稿を次々とフリックしているような、上滑りしていく浮遊感だけが強く残る。
2016年現在、東京には100m以上の高層ビルが約500棟も建ち並んでいるという(住居用の場合は30階建てで100m程度)。そのうち都心5区と呼ばれる千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区に約65%が集中している。背の高い建築物が紡ぎ出す風景こそ東京最大の特徴と言えるが、何か異様なパワーが渦巻いているような世界観を漂わせる都心は、さながらパラレルワールド(同時並行世界)のようだ。
仮想現実でも非現実空間でもない。東京に住んでいる者なら誰でも肌感覚で知っている。東京には二つの表情があることを。日常生活の場としての「東京」と、出入り自由なパラワルワールドとしての「TOKYO」。それは女の子の入浴後や就寝前のスッピン顔と、女子会やパーティへ繰り出す時のメイク顔の違いにとてもよく似ている。
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