2015.09.04
- ARTIST
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アーティスト自身による
自画自賛 Vol.10
岸由利子
この連載コーナーのテーマは、「アーティスト自身による自画自賛」。文字通り、アーティスト本人に自分の作品を自賛していただくわけだが、基本的には書き手がその人を取材して、第3者的な視点から書き、読み手に届けるのがおおまか通常の流れだった。
今回は同WEBマガジン編集長殿よりありがたくご指名いただき、画家としての岸由利子(右)を筆者・岸由利子(左)が取材するという1人二役の自我対談バージョンでお届けすることになった。ご笑納いただければ、無上の喜び。では、さっそくご高覧いただきたい。
──この作品は?
ヨーロッパ最大の日本文化とエンターテイメントの祭典、パリの「ジャパン・エキスポ」の伝統文化部門に出展した作品のひとつです。京都の舞妓さんがお店出し(舞妓デビュー)する時や襟かえ(芸妓デビュー)する時に、ご贔屓のお客さんなどから贈られる“目録”に対するオマージュを表現しました。鯉の他には、だるまやシャチホコ、龍、鷹、七福神など日本的なモチーフを描きました。
──左の文字は?
書道家の谷正風さんによるものです。先に私が絵を描き、谷さんがそれに対して感じたことを書にして表すというコラボレーションを行いました。どの絵に対してどんな書を入れるか、その配置はどうするかといった打ち合わせは一切せず、実験的、かつ直感的に、ぶっつけ本番で行いました。どの絵も書とケンカすることなく、どちらか一方が主張しすぎることなく、不思議と収まっているのは、感覚的な相性が谷さんとバッチリ合っていたこともありますし、制作風景を撮影してくださったカメラマンや映像ディレクターの方など、陰で支えてくれたスタッフの方たちのほんわかした空気感がとても心地良かったからだと思います。おかげさまで、のびのびと絵に没頭することができました。
──文字に意味はあるの?
「壽萬年祚百世 (じゅはまんねん、そはひゃくせい)」という漢詩で、「万年も長寿に、百代も幸福に」という意味です。原画はポスターサイズですが、A4のミニチュア版やポストカードも作ったんですね。おめでたいモチーフや書のせいか、作品を飾ってくださっている飲食店では、「お客さんが増えた!」とか、ポストカードを手帳に入れて持ち歩いているモデルさんが「オーディションに受かった!」など嬉しい声をよくいただきます。パリでは、私が描いた舞妓さんと芸妓さんのポートレートの上に、谷さんが書を入れるというライブパフォーマンスを行い、来場者の方たちにはたいへん喜ばれました。純粋に嬉しかったですね。
──そもそもなぜ、京都の芸舞妓の世界に着想を得たの?
日本的なモチーフを描いた理由は?
芸舞妓さんの世界には、書き手としての仕事を通して携わるようになりました。「日本には、こんなに美しい世界があったんだ!」と花柳界の風習や伝統に対して感動すると共に、「もっと知りたい、もっと体験してみたい」と、貪欲にのめり込んでいく自分がいました。日本的なポスターともいえる目録をベースにすることで、この国の文化の魅力を異国の人にも感じてもらえたらいいなと思い、本作の発表に至りました。
15歳から25歳までの10年間、海外に暮らしていたこともあり、帰国後、日本人でありながら、日本のことを何も知らない自分にはたと気づいて、愕然としました。以来、日本文化に対する憧れや探究心は人一倍強く、今も独自ではありますが、勉強・取材を続けています。知れば知るほど奥深く、興味は尽きないですね。ただ、絵に関して言うと、日本的なモチーフだけにこだわっているというわけではなく、描きたいと思うものは何でも描きますし、紙であろうとキャンバスであろうと、土台の種類やサイズも問いません。
──そのひとつが、浅草の鳥カフェの壁画?
「密林」は描きたかったひとつなので、オーナーさんから電話で依頼を受けた時、すぐさま引き受けました。が、現場に行ってびっくり。想像した2倍以上のサイズの壁が2枚。プラス天井。たしか当初、製作期間のリミットは1週間だったと思いますが、結果的には下塗りだけで2日半、トータルで2週間半ほどかかりましたね。オーナーさんには申し訳なかったのですが、なにせ大きいので描いても描いても、終わらないんです。途方に暮れて、床に大の字になり、そのまま眠ってしまった夜もありました(笑)。幅10センチの筆で大きな壁に描くのは爽快でしたが、はしごに登って、パレット片手に天井を描くのは初めて。感覚を掴むまでに少し時間がかかりましたね。無事開店した今は、約70羽のインコたちと遊べる空間になっています。
──日本スペイン交流400周年認定イベント「MATSURI in BARCELONA」のポスターも描いた?
はい、これは2013年から毎年6月頃、バルセロナで開催されている日本の文化催事で、主宰の方から直接依頼を受けて描いたものです。きっかけになったのは、先のジャパン・エキスポで発表した作品でした。テーマは「盆踊り」。日本髪を結った浴衣姿の女の子を中心に、やぐらの下で舞う男女を描きました。
──今取り組んでいるのは?
108枚。煩悩の数だけ、男の顔を描くというプロジェクトです。まだ試作的な段階ですが、少しずつ形になってきてはいます。あと、絵とは話が少し反れてしまうかもしれませんが、日本文化というところでいうと、「BRAVO NIPPON(ブラボーニッポン)」というメディアを今年公開する予定です。すでにFACEBOOKページは先に稼働しています。「ニッポンの今と昔の文化交差点」と題して、花街文化を中心に、相撲や歌舞伎などを独自の視点から解釈したコンテンツを発信していきたいと思っています。
from 編集長
岸由利子とは、本当に不思議な人だ。実は彼女に初めて会ったのが、まだファッションデザイナー時代。「マルコマルカ」を立ち上げた当初だった。そして10数年の年月を経て、tokyowise編集部立ち上げメンバーとして突如登場したのだ。ライターでありインタビュアーであり、様々な企画を一緒に考えている。とにかく、彼女の不思議さは、そのシャープな佇まいからは想像できないぶっちゃけ感にあると思う。気がつくと彼女のペースに巻き込まれるかのような。それだけに彼女のインタビューは、通り一遍ではない深さを持つのだと思う。そう、みんな岸由利子には気をつけるように!知らないうちに彼女のペースで人生が回り始めてしまうかもしれないから(笑)。
岸由利子 | Painter Writer 画家・著述家
英国ロンドン・セントラルセントーマーチン美術大学FDM(ファッションデザイン・ウィズ・マーケティング科 学士号<Bachelor of Arts>)卒業後、ブランド「マルコマルカ」を創立し、東京コレクションにて最年少女性デザイナーとしてデビュー。ファッション界で活躍したのち、画家、著述家に転身。氣志團への作詞提供をはじめ、現在はメンズファッション・ライフスタイル分野を中心に、芸術・社会・文化などの分野で執筆中。近年の共著に「人を引きよせる天才 田中角栄」「先生が教えてくれなかった大日本帝国」「武士道の極意に触れる流派から学ぶ日本の礎」(いずれも笠倉出版社)等がある。最近では、絵画以外にも、墓石や棺のデザインも手掛けている。
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