ARTIST SELF-PRAISE 作家自画自賛

2015.03.17

ARTIST
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アーティスト自身による
自画自賛 Vol.08
井上 隆夫

それは不思議なオブジェだ。わずかな風にも飛ばされそうなタンポポが、完全なカタチでアクリルの中に封じ込められている。何気ないようだが、この事実は驚愕に値する。この造形を生み出したのが、シネマトグラファーの井上隆夫氏だ。1000本を越えるCMに関わり、シネマトグラファーとしての地位を確立している氏が、なぜ光のオブジェに関わることになったのか。なぜ光にそこまでこだわるのか。井上氏自身が、その背景を語る。

#1
TAMPOPOはどこから生まれたのか?
第一のインスピレーション


私自身は、今も映像系のカメラマン=シネマトグラファーをベースにしています。その仕事の中で、特に照明、ライティングに強く関心がありました。そんな中、ある家具ブランドの撮影でデザインに興味を覚え、特に倉俣史郎作品に惹かれていったのです。縁あって、家具の買い付けの仕事を中目黒にあったオーガニックカフェで手伝う中で、倉俣さんの「ミス・ブランチ」を実際に作っていた職人の方と知り合い、光のインスパイアを受けた作品をいつか作りたいと思うようになりました。

SONY DSC

#2
TAMPOPOはどこから生まれたのか
第二のインスピレーション


同時期に本来の仕事であった映像カメラマンのアシスタントとして、故伊丹十三監督の「マルタイの女」という作品に参加することとなりました。この尊敬して止まない監督の名作であり私自身がいちばん好きな作品「たんぽぽ」へのオマージュが、私の作品である“TAMPOPO”の裏テーマなのです。

#3
二つのインスピレーションの融合


先ほど話した倉俣作品を制作していた伝説のアクリル職人、斎藤さんに「たんぽぽ」のアイデアを話しました。できるかどうかは分からないが、やってみようと。
そこからは試行錯誤の連続でした。何しろ、1年のうちでタンポポが採取できるのはわずか数週間。ある年に失敗すると翌年まで待たなければなりませんでした。しかも完璧な形のままタンポポを持ち帰るのはとても難しく、持ち帰れたとしても、10個のうちやっと3個が形になるという程度です。
どうやって作るかに関しては、完全に秘密です。これは斎藤さんと私の二人で作り上げたものだからです。
その意味もあって、最初にこの“TAMPOPO”を発表した時には「斎藤正春・作」としたほどです。斎藤さんが引退された後は、私が引き継ぎ制作を続けています。

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#4
これはアート作品なのか?


アートかどうかということは、特別に考えているわけではありません。ただ、ニューヨークのMOMAで売り上げがナンバー1になったり、海外の美術館からも招聘されたりと、アート方面での評価が高いのは事実です。
私としては、“倉俣史郎の光”からインスパイアを受けたという経緯からも、また自分自身が映像を作る人間として、光と影を扱うことをテーマに作品を作り続けたいと考えているだけです。
その意味でも“TAMPOPO”を発展させ、より光の印象の強い作品を作りました。それが、“OLED TAMPOPO”です。仕事で関わることになった有機ELの光の美しさと従来の“TAMPOPO”を融合させたもので、有機ELの光をコンピューターで制御し、カオス係数をいれた1/fの揺らぎを持った光を作り、ゆらめきの光、水面の揺らぎや木洩れ陽を表現しています。固定されたタンポポが、揺らぎの光の中で揺れているかのような、そんな存在を目指したものです。

s_tokyowise Tampopo Hexa 上から

#5
光は、どう発展していくのか


スチルの撮影は影を撮り、シネマトグラファーは光を描くと言われます。その意味でも自分はジネマトグラファートして、“光”を表現し続けていきたいと考えています。例えば、美しい光の中に置かれたモノ、弱い光が儚く拡散していく様。その光を見た瞬間に、人は様々な分析を止め、脳が解放されるのではないか。そんなことを考えながら、次の作品作りを進めています。
その一つが、“SYABON”シャボン玉が水面に着いた瞬間に現れる、乱反射の美しさを封じ込めようというものです。記憶の中にある光、子供の頃に不思議に感じた光のマジックの再現です。
また“TAMPOPO”の発展系ですが、万華鏡の面白さを使って、タンポポ畑を作り出すというもの。“TAMPOPO STOOL”と名付けました。万華鏡の六角形というのは、プリズムとして光の集光と拡散を繰り返します。その不思議な面白さは、例えようもありません。スツールを覗き込むと、そこには永遠にタンポポ畑が広がります。

s_tokyowise Syabon 私は、シネマトグラファーとしての経歴をベースにして、そこで自分の中に芽生えた“光”への憧憬をカタチにするという作業を続けているだけです。自分の作品をそう位置付けています。アーティストと呼ばれるよりも、光の作家と呼ばれる方が嬉しいかもしれません。

(Text: Y.Nag)
(Photo: Yuuko Konagai)

s_258A3549 井上隆夫 TAKAO INOUE
デザイナー、シネマトグラファー、クリエイティブディレクター。
フリーカメラマンアシスタントから、伊丹十三監督作品、実相寺昭雄監督作品の映画撮影に関わる。その後、数多くのCM撮影を行いながら、空間照明のディレクション、ライティングプロダクツの開発にも関わる。2014年のミランサローネで“TAMPOPO”を発表。世界で高く評価され、MOMA(ニューヨーク近代美術館)で、2014年に最も人気があり、最も売れた作品と認定される。現在は2016年に予定されるパリでの個展の準備に追われる日々だという。
http://takaoinoue.com

“TAMPOPO”は下記のサイトで購入可能
http://www.somewheretokyo.com/takaoinoue_tampopountitled.html

“OLED TAMPOPO”は下記のサイトで
http://www.somewheretokyo.com/takaoinoue_oledtampopo.html

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