TOKYO SLEEPER 東京快眠

2015.02.16

SLEEPER
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東京快眠指南 Vol.09
by Megumi Kaji
体内時計

私たちの眠りをコントロールしている仕組みの一つに「体内時計」の存在があります。普段意識しなくても、海外旅行で現地の時計とのズレから「時差ボケ(ジェットラグ)」になると感じるものでしょう。夜型化・グローバル化が進む現代社会では、生活リズムが乱れて国内に居ながらにして時差ボケを感じる状況も多く「ソーシャル・ジェットラグ」という言葉もあるそうです。
睡眠以外にも体温やホルモンの分泌リズムなど、私たちの体は様々な生理機能が約一日のリズムを刻んでいるのですが、そのリズムを作っている体内時計は体の臓器ほぼすべてに存在し、それらのペースメーカーの役割を果たしているのが脳内の視交叉上核です。光はダイレクトにペースメーカーである視交叉上核に伝わり、リズムが修正されるのです。一方、食事のタイミングはダイレクトに体内時計を調整します。なぜそうなるのかわかっていないそうですが、おそらく、かつて食べ物が少なかった時代、食べたものを効率よく吸収することが生存に直結していたからではないかと考えられています。
山口大学時間学研究所の明石真教授によると、北極圏の島に住む野生のトナカイに万歩計をつけて行った一年にわたる実験によると、いつまでも明るい白夜や昼間も暗い極夜の季節がある北極圏に生まれて育ったトナカイには、体内リズムが見られないそうです。光がいかに体内リズムに影響を与えているかがわかる実験といえます。なぜ私たちには睡眠覚醒のリズムがあるのでしょうか?明石教授によると、ヒトとしての進化の過程で“エネルギーの省力化”によるものだということです。天敵と時間をずらして生活し、夜は睡眠というエネルギーを使わない時間にあて、生存率を高めてきたのかもしれません。
今の時代、リズムを持って体を省エネモードにする必要があるのだろうかという問いも立てられそうです。むしろ、活動休息のハッキリしたモードの中間くらいで活動状態を保っている方が体は適応するのかもしれません。さらに、これからはリズムがない人の増加も大いに考えられるし、またそういう人たちの方がひょっとしたら今の社会では有利なのかもしれない。ただ、ヒトの場合、世代交代がとても長く、そういうリズムのない人たちが世代の中に定着するには途方もない時間がかかることは間違いない、と明石教授は言っています。食事のタイミングがリズムの調節に働く仕組みや、リズムの省エネモード理論も、長い人類の進化の歴史の中で適応してきた結果のようです。エジソンの白熱電球発明から青色LED開発までおよそ150年しか経っていない現代社会、眠りの進化はまだ続きそうです。

(Text : 鍛冶恵

鍛冶恵
東京生まれ。1989年ロフテー株式会社入社後、快眠スタジオにて睡眠文化の調査研究業務に従事。1999年睡眠文化研究所の設立にともない研究所に異動後、主任研究員を経て2009年まで同所長。睡眠文化調査研究や睡眠文化フォーラムなどのコーディネーションを行なう。2006年、睡眠改善インストラクター認定。2009年ロフテー株式会社を退社しフリーに。2010年、NPO睡眠文化研究会を立ち上げる。
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