2017.09.19

Vol.20 アツい東京

3回入水の意味とは!?「無」の境地を求めて 檜原村“滝行”体験記

滝って、良いですよね。マイナスイオン効果云々は眉唾だけど、とにかく異様に清々しい。見てると無性に魅入ってしまうし、音を聞いてるだけでもトランスしそう。つまり、神々しい。そんな大いなる存在が、大小合わせて50以上も集中している場所が東京都内にある。それが多摩地域の西部、檜原村。人呼んで、東京・滝パラダイス。さらに調べてみれば、そこでは滝行もできるという。この意外とダラダラ続く残暑の中で冷たい滝の水に打たれるなんて、まさに『アツいトーキョー』にピッタリ!そう思い立ったが吉日、僅かな情報を頼りにアポイントを取り、暑さと邪気をフッ飛ばすべく檜原村へ滝行に行ってきました。

『数馬の湯』で学ぶ滝行


『数馬の湯』で学ぶ滝行

撮影当日は台風一過。パッとしない天気が続く今夏の中でも、一番のド快晴日にブチ当たった。どう考えてもツイてる。滝の神様に呼ばれちゃった感じ? なんて自惚れつつ向かった先は、檜原村随一の温泉施設『数馬の湯』。今回滝行をご指導いただく、西澤形一さんご指定の集合場所だ。ちなみにこの西澤さん、『滝行と自然を味わう会』を主宰する傍ら、埼玉県飯能市の神社、平松天神社の現役宮司でもあるという。さぞ神妙なお人柄を想像し、やや緊張しながら待つものの、そこに現れたのは満面の笑みに砕けた所作、そして、とにかくまぁよく喋る(他意なし)、要はとても陽気なオッチャンだった。さっきまでの緊張も一気にほぐれたところで参加者全員が揃い、早速今日の本題に突入する。

『数馬の湯』で学ぶ滝行

と、その前に、まずは神様へご挨拶 。これからお世話になる滝を祀る、九頭龍神社に参加者全員でお参りに。ちなみに普段の滝行は『九頭龍の滝』で行われることが常だが、今回は前日までの台風の影響で水量が増していたため、もう少しユルめの『竜神の滝』で行うことに。若干肩透かしを食らいつつも、ここで改めて西澤さんより滝行の作法が教え込まれる。曰く西澤さん指導の滝行では、計3回入水するとのこと。「え、3回も? まぁこの暑さ(この日の東京の最高気温は37℃)だし、ユルめの滝だっていうし余裕でしょ」。なんて軽口を心の中で叩いていた自分の愚かさに、この時はまるで気付いていなかった。

いざ、滝の中に入水!


いざ、滝の中に入水!

3回の入水には、それぞれ違う意味がある 。1回目は水に慣れるため、2回目は罪汚れや重たいものを流すため、3回目は滝の神聖なお恵みをいただくため。なるほど、それで3回なのね。
程なくして今回の行場、『竜神の滝』に到着。早速、滝壺の脇でフンドシ一丁に穿き替える。この日の参加者は計11名の内女性が9名。大学生と思しきキュートな女子4人組もいた。どうにも居心地悪いフンドシ姿に若干照れもあったが、一度慣れてしまえば、むしろ爽快!くらいに感じるから人間の適応力は恐ろしい。そうこうする内、離れた場所で着替えていた女性連も合流。西澤さんからの最後の説明を終えると、いよいよ1回目の入水が始まった。

順々に人が入れ替わるたび、漏れなくこだまする黄色い悲鳴。1回目の入水では、滝に打たれながら『祓い給え清め給え』という念の言葉を3回繰り返し発する決まりだったが、それすらままならないご様子。時折「もっと滝の真下まで入れ!」 と西澤さんからの激も飛ぶ。その表情は先程までの気さくなそれとは打って変わり、険しく、威厳に満ちている。先生、完全に本気モードです。 すっかり現場もピリついたムードに包まれたところで、いよいよ私の順番に。よーしここはズバっと入ってビシっと終えて、男らしいとこ見せてやるぜ。気合十分で初めの一歩を滝壺に踏み入れると……。つ、冷たぁっ!っていうかむしろ痛ぁっ! さらに水中に埋まった足下は無秩序に切り立った岩だらけで、兎にも角にも歩きにくい。あ、歩くのも痛ぁっ! とはいえモタモタするわけにもいかず、必死に耐えながら足を進め、いざ滝の真下に潜り込む。

いざ、滝の中に入水!

ズバババババッッッ! 振り下ろされる轟音とともに、一瞬にして頭が直角に叩き下げられる。ちょ、なにこれ!? なにこの衝撃! 全然まったく少しもユルくない! あまりの水圧に圧倒されながらも例の言葉を発しようとするが、息ができない、声も出ない。なんとか腹の底から絞り出し、呆然と滝壺から這い上がった。

ヤバイよ、これは。想像してたのと全然違う。 若干レジャーな気分で来ていた己の浅はかさを激しく呪った。これは滝行。今の我が身は修行者なのだ。反省しつつ改めて気持ちを引き締めしていると、早くも2順目が回って来た。なお2回目と3回目の入水では、修行者はただ祈るのみ。その間、岸際で西澤さんが般若心経を唱え、それが終わるまでこの恐るべき水圧に耐え続けなければならない。心を整え、再度入水。滝の神様はパワフルに、そしてクールに全身を打ち付けてくる。うっすらと西澤さんが般若心経を唱えている姿は見えるものの、声は一切聞こえない。とにかく心の中で祈りの言葉を繰り返す。

……長い。まったく終わらない。 実際には2分前後だったと思われるが、体感的にはその倍はあった気がする。思えば、途中から祈ることすら忘れていたような……。はっと気付くと、西澤さんが終わりの合図を身振り手振りで伝えていた。我に返り、おぼつかない足取りで岸に向かう途中、ようやく数秒前の『無』の時間を認識した。

NEXT>>そして、訪れる「無」の瞬間!

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