2017.09.05
- 読書狂時代
本とカレー
なぜ本読みにはカレー好きが多いのか?
この質問をされるたびに、ああ、時代は変わったのだなと思う。昔々、まだこの世の中にインターネットが普及していなかった頃、もちろん amazon も、amazon market place もなく、ちょっと珍しい本や、絶版になってしまった本を買うためには神保町に行かなければならかったのです。週末、たっぷり朝寝坊を楽しんでから(だって金曜日の夜は絶好の夜更かし&読書タイムですから)、電車に乗って神保町にやって来ると、靖国通りから小川町まで古本屋に出たり入ったりしながら欲しい本を吟味し、御茶ノ水では中古のレコードやCDを掘り(そう、Spotify や apple music ももちろんありません)、そして今度は新刊パトロールのために“三省堂”や“書泉グランデ”まで戻った時にはもうお腹はペコペコ。そんな時、“ボンディ”や“共栄堂”や“エチオピア”から流れてくるスパイスの芳醇な香りがどんなに魅惑的だったか、想像に難くないことと思います。すなわち、新しい本と出会う喜び=カレーの美味しさ、であるとシナプスか何かに深く刻み込まれているのです。が、それはともかく、読書もカレーも最高! しかも季節は秋! 食欲と読書の秋! お気に入りの本をポケットに、涼やかな風が吹く街を散歩して、美味しいカレー屋さんを訪ねてみるのはどうだろう、ということで、読書がしたくなるカレー屋さん、厳選5軒+勝手に本をマリア―ジュ特集をお届け致します。大人なTOKOYWISEの読者の皆さんには言うのも野暮かもしれませんが、本を読むのはカレーを待つ間。混んでいたらすぐに席を空けましょう。空いていたらちょっとだけ長居もいいかもしれませんが、是非ともドリンクやデザートを頼むなどお店への配慮を!
茶房 武蔵野文庫
武蔵野である。文庫である。もうこれはカウンターで純文学を読むしかない。もうベタに菊地寛の『武蔵野夫人』なんかどうだろう。夫人繋がりで、ラファイエット夫人の『クレーヴの奥方』の不倫劇なんかも合いそうだし、あと普通に夏目漱石や芥川龍之介なんかも読みたいような気がする。金井美恵子や今村夏子なんかも合いそうだ。スパイスを焙煎しているのだろうか香ばしく苦味のあるルーに、長時間煮込んでホロホロになった鶏肉に絡み合う、どこか懐かしさのあるカレーはクセになる美味しさ。店内のレトロな雰囲気と完璧にマッチ、新参のブックカフェなどでは到底出せない創業30年以上と言う歴史の深みを感じさせる。食後のコーヒーと一緒に檸檬ババロアを食べるなんて、なんとも文学的でロマンティックではないですか。
マリアージュしたい本:岩波文庫。古本でカバーが取れている状態なら尚よし。実際、そんな本をかわいい女の子がカウンターで読んでいたりする。行きか帰りには古書店“百年”に寄りたい。
茶房 武蔵野文庫
武蔵野市吉祥寺本町2-13-4 吉祥寺井野ビル 1F
☎0422-22-9107
9:30~22:00 月火休
https://tabelog.com/tokyo/A1320/A132001/13005823/
小さかった女
私は普段ガッツリ仕事をしているキャリアウーマンなので(本職はPR)、どうにかやりくりして本を読む時間を作っている。そんな状況なので、読む本はどうしても失敗したくない。というワケで、大抵ブッカーやらゴンクールやらO・ヘンリー賞あたりの受賞作やら、『New York Times』 や 『The Guardian』のブックレビューなどで話題になっている作品やら、私以上に本を読んでいる愛すべき読書狂仲間のおススメやらと、とにかく手堅い本選びをしている。ああ、でも、昔は図書館や古本屋さんで、気になったタイトルの本に手を延ばしていたな、大失敗もあったけど、ものすごい発掘もあったりして……、なんて思わず遠い目になってしまいそうなのがこのカレー屋さん。店名がとにかく文学である。タイトル買いをしたくなる。どうしてこの店名になったのかとても気になるけれど、触れたくないような気もする。パトリック・モディアノ感もあるし、安部公房感もある。シルビア・プラス感もあれば、シャーリー・ジャクスン感もある。トレンチコートを着て、サングラスを掛け、タバコを片手に「そう、私は昔、ちいさかったのよ……、とても」なんて言ってみたくもある。ちいさかった女が作る(?)カレーを食べながら、少しミステリアスな気分に浸りたい、と考えるとミステリーなんかも合うのかもしれない。
マリアージュしたい本:古本屋でタイトルに魅かれた本、amazon のおススメには出て来なさそうな本。女性作家の書くミステリー小説。
小さかった女
品川区小山5-25-14 カーサファイブ1F
☎03-6887-2292
11:30~21:00(土日祝11:30~23:00)月休
https://www.facebook.com/chiisakattaonna/