Cafe Culture

2015.02.18

Cafe Culture
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Vol.05
東京最古の喫茶店「カフェーパウリスタ」に行ってみた

ま、いまさらコーヒー好きに説明の必要もないけれど、銀座8丁目の「カフェーパウリスタ」は、東京に現存する最古の喫茶店だ。カフェの創業は1910年というから、実に105年の歴史を持つ。今は、瀟洒なビルにある目立たない喫茶店という趣だが、ホームページを見るとわかるように、開業当初から文化人や芸術家に愛されてきたことがわかる。
さて、サンパウロ市の紋章である女神が描かれたドアを開けて入ると、特別感はないけれど、懐かしい喫茶店の風景が広がっている。低めのボックス席。小さめのコーヒーテーブル。すべてが“The 喫茶店”だ。制服のウエイトレスに急がされてのオーダーはジョン・レノンが愛してやまなかったとされる、パウリスタオールド。カップも往時の雰囲気そのまま。漆黒のコーヒーは苦味が勝つ感じだ。
店内にはのんびりとした空気が流れ、パソコンを開く人など当然のようにいないw。カウンター前はジョンが三日通い続けた席とのパネルが。 s_cafe_illust_5
なんなんだろう、懐かしいというだけでなく、コーヒーをのんびり飲む感じが心地いい。メニューにはコーヒーへのこだわりが書かれているが、それもさして重要じゃない気になる。そう、コーヒーが横にある時間の感覚。それと椅子の低さが仕事モードを呼び起こさないのではないかと思ったり。喫茶店という日常の中のサードプレイスとして機能している感じ。前回のコラムでハイスツールの効用について書いてみたのだが、その真反対。
こんな感覚の喫茶店が、かつては町のそこここにあったはずだが、いつの間にかほとんどが無くなってしまった。時間の流れがそれだけ早くなったということなのだろう。今の自分たちにとってフィットするサードプレイスは、スターバックスのように、身近にあって、ちょっとスピーディな感覚を持つ場所がふさわしく機能してくれている。優劣の問題ではないけれど、カフェ・パウリスタが持つのんびりとした時間も捨て難いが、PCとネットとスマホの時代になって、打ち合わせや作業に追われる日常の中では、スターバックス的なファンクショナルな場所が欠かせないのも事実。ようするに、コーヒー自体の味わいも重要だが、それ以上に空間としてのカフェないしは喫茶店の役割というのが大事で、それをどう使い分けるかが自分の生活スタイルになってくる。友人のイラストレーターは、ほとんどの作品をスターバックスで描いているというし、まさにそういう場所なのだ。
と、帰り道に話題のブルーボトルコーヒーを覗きに行った。開店間もなくということで、まだ行列ができていた。席は8席しかないという。カフェ・パウリスタとコーヒーの味云々は置いておくとしても、自分にとっては無縁のコーヒーショップとしか感じられなかったのは、時間と空間の感覚がここには無いからだ。
空前のコーヒーブームと言われているが、場所と時間の感覚までも含めて、自分にとって必要な場所としてのカフェ=喫茶店を改めて考え直してみたいと思った。

(Text: Y. Nag)
(Illustration:ワキサカコウジ)

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