Editor’s Eye

2015.07.07

Editor’s Eye
s_20150323_L_img_01 copy

現代美術家とレンズの出会いが生み出したもの

レアンドロ・エルリッヒという名前に聞き覚えがあるだろうか。
金沢21世紀美術館に常設されているプールを下から見上げる作品<Swimming Pool>で、日本でも知名度が上がってきている現代美術作家だ。ブエノスアイレス出身で、現在は世界中で作品を発表している。
彼の作品の大きな特徴は、視点の変化。日常的に捉えている空間の錯誤。そんな新しいものの見方を提案するような作品が多く、その中に潜むユーモアが多くの人々の心を捉えているのだろう。
そんなレアンドロのインスタレーション作品を、彼自身初となる映像作品としてショートフィルム化した動画が、WEBで公開されている。
ニコンのレンズブランドである「ニッコール」のグローバルブランディングサイトだ。基本的にはレンズのプロモーションサイトではあるが、製品ラインアップだけでなく、レンズの設計者の生の声や、写真家たちの作品に加え“NIKKOR Motion Gallery”と名付けられたショートムービーのコンテンツが充実している。
日本を代表する映像プロダクションとも言えるWOWの手による「TOKYO DENSE FOG」は多くの海外メディアにも取り上げられ、東京の神秘的な魅力を浮かび上がらせている。もう1本のaugment5 Inc.の「HOPE」は、世界をめぐり彼ららしいドキュメントな手法で、市井の人々の日々の想いをクローズアップしている。
この2本に新しく加わったのが、レアンドロの新作「THE SETTING UP」だ。

s_LE_theSettingUp_still_05

元来、レアンドロの作品は空間とともにあり、平面で提示されることはない。が、今回の映像作品ではこれまでの空間の概念に“時間”という概念が付加されているように思う。時間の概念というムービーでしか表現できない世界観が加わることで、彼の描く「自分たちが知っていると思っている世界は、実はそうではないのかもしれない」という提示をより深く表現しているように思う。詳細に関してはネタバレになるので、これ以上は言及しないが、レアンドロという芸術家の新しい挑戦がネット上に展開されていること自体、驚きと言わざるを得ない。

s_LE_theSettingUp_still_16 さらに特筆すべきは、この映像作品の画像クオリティの高さだ。ニコンという世界的なカメラメーカーの、それもレンズの特化型サイトだから当然といえば当然なのだが、クリアで静謐。まるで、どこかの新しい美術館でインスタレーションを見ているかのようだ。リールの最後には使用されたレンズの一覧が掲載され、しかもカメラはD810というデジタル一眼レフだという。
ややワイド目な35mmや58mmという標準に近いレンズで描かれる世界は、我々が常日頃見慣れている光景として、すんなりと映像世界の中に入り込める。
このようなアーティスティックな取り組みを続けていることで、ニコンというメーカーは単なるメーカーにとどまらない、映像カルチャーのブランドへと進化していくのだろうか。

NIKKORグロバールブランディングサイト
http://www.nikkor.com

NIKKOR Motion Gallery
http://www.nikkor.com/motion_gallery/

(Text: Y. Nag)


s2_LeandroErlich_kornilov

レアンドロ・エルリッヒ Leandro Erlich
1973年ブエノスアイレス(アルゼンチン)生まれ。現在はモンテビデオ(ウルグアイ)に在住。2000年のホイットニー・ビエンナーレをはじめ、2001年、2005年のヴェネチア・ビエンナーレなど数多くの国際展に出展。その作風は観る人がアート空間に入り込み、作品を自ら体験できると、世界で評価される。日本では金沢21世紀美術館で永久展示となり、また大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭などでも作品を発表している。
http://www.leandroerlich.com.ar/

TOKYOWISE SOCIAL TOKYOWISE SOCIAL