BIRTHDAY STORIES

2015.07.06

BIRTHDAY STORIES
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Birthday Stories Vol.03
『五月の半ば』

中村航



 大学近くのスターバックスに入って、ソイラテを頼んだ。五月半ばの月曜日、少し汗ばむような陽気に、今年初めてのアイスにしてみる。
 席についてスマートフォンをいじり、大学の課題のメモを取りだした。一つ二つのメモを書き、それから少しぼんやりとする。アルバイトに向かうまで、まだあと三十分くらい時間がある。
 余った時間をこんなふうに過ごすようになったのは、いつからなのだろう……。
 初めて一人でカフェで時間を過ごしたとき、自分が大人になったような気がして嬉しかった。あれはちょうど今ごろの季節だったかもしれない。大学生になって東京に来て、何もかもが新しい生活に戸惑いながらも、ようやく慣れ始めたころのことだった。
 そういえば、とわたしは思いだす。のぞみ先輩は元気にやっているだろうか……。

002_2  三月の終わり、卒業して神戸で働き始める先輩と、お茶でもしようと連絡を取り合っていたのだけれど、なかなか予定が合わずに、結局、会うことができなかった。今年に入ってから知り合った先輩で、ゼミに入るときに、いろいろ相談にのってもらった。ほんの数ヶ月の付き合いだったけれど、本当は会って、ちゃんとお礼を言いたかった。
 卒業してしまった先輩に、ちょっとしたプレゼントを送りたくて、SNS経由でStarbucks eGiftを送った。さりげないプレゼントだけど、わたしだったらもらって嬉しいプレゼントだ。

 ありがとう、嬉しい! 向こうで使わせてもらうね!

 神戸へと向かう新幹線のなかで、先輩はわたしのプレゼントを受け取ったらしい。向こうに行っても頑張る、華ちゃんも頑張ってね! と、メールの最後には書いてあった。
 先輩は……今ごろ何してるんだろう……。
 ソイラテを飲みながら、わたしは想像した。就職して、初めての環境で、一ヶ月くらい経ち、そろそろ新しい生活に慣れたころだろうか。社会人生活というものが、どんなものなのか、わたしにはまだ想像できない。わたしも来年の今ごろには、就職しているはずだけれど……。
 ソイラテを最後まで飲むと、ずず、と音がした。そろそろアルバイトに向かわないといけない。時間を確認しようとスマートフォンを操作したとき、それに気が付いた。写真を添えた、先輩からのメッセージが届いている。

 華ちゃん、今日、もらったeGift使わせてもらったよ。ありがとうね! 今日っていうか、今、お店でフラペチーノ飲んでる。神戸で初スタバ! 社会人生活初フラペチーノ!
 たっぷりと生クリームののったフラペチーノの写真が、メッセージに添えられていた。嬉しくなったわたしは、急いでメッセージを返す。
001_2  先輩、今、わたしもスタバにいて、それで、たまたま先輩のこと考えていて——
 バイトの時間は迫っていた。急がなきゃ、と思いながら、わたしは猛スピードで文字を入力する。

(Text: 中村航)
(Graphic: TPDL)

presented by STARBUCKS eGift
https://gift.starbucks.co.jp/


中村航
69年岐阜県生まれ。02年「リレキショ」で第39回文藝賞を受賞しデビュー。
04年『ぐるぐるまわるすべり台』が第26回野間文芸新人賞を受賞。
著書に『夏休み』『100回泣くこと』『あなたがここにいて欲しい』『デビクロくんの恋と魔法』など。
最新作は『僕らはまだ、恋をしていない!3』

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