Editor’s Eye
2015.07.28
- Editor’s Eye
舞妓は~ん!!が東京に上陸 ~舞妓は歩く芸術~
先日、六本木ヒルズアリーナの野外ステージに、総勢40名の京都花街の芸舞妓たちがやってきた。このイベントは、『“ほんまもん”だけ3DAYS』といって、JR東海、京都市、京都市観光協会が3社連携で夏の京都への旅行を呼びかけたもの。昨夏150年ぶりに復活した祇園祭の「大船鉾」も初上陸し、川床カフェなど、雅な京の夏を感じる演出満載で、大いに盛り上がった。
ひょんなきっかけから芸舞妓の世界に出会い、独自取材を続けること約1000日。350年近い花街の歴史の中では一瞬にすぎない時間かもしれないが、知れば知るほど奥深いその文化。驚きと発見と感動の連続で、自身にとってはノックアウトの連発。知りたいことはまだまだ無数にあるし、これからも探索・研究を続けていくつもりでいるが、今回のイベントで、またひとつ新たな発見があった。ひと言でいうとしたら、それは「アウェイ感が生み出す感動」である。
舞踊やお囃子など、卓越した伝統技芸で宴席に興を添えるエンターテイメントのプロフェッショナルである芸舞妓。彼女たちにとって、京都は“ホーム”。それ以外の地域は“アウェイ”。そんな当たり前のことをあえてお伝えしたのには理由がある。彼女たちは今、“ホーム”をベースに、国内各地はもちろん、世界各国、さまざまな“アウェイ”の地で、ニッポン文化の伝道者として活躍しているのだ。
「おかあさんに、よろしゅういうとくれやっしゃ」 「月曜は、検番(お稽古場)においやすか?」。京都に生まれ育った人でも、時折解読するのがむずかしいといわれる“花街言葉”とその元である日本語。あるお茶屋の女将は、二人の同時通訳者を従え、ロサンゼルスで芸舞妓について講演を行い、現地の人々に大絶賛された。つい先月は、京都最古の花街・上七軒(かみしちけん)舞妓の梅ちえさんが、インドネシア・ジャカルタ郊外のイオンモールBSD ユニクロ新店オープンセレモニーで舞を披露し、来客をもてなし、500組にも及ぶ客たちと撮影会を行った。そのほか、ニュージーランドで育ったバイリンガル舞妓がデビューするなど、格式高い花柳界も、伝統を守りつつ、時代と共に革新するべく、グローバル化が進んでいる。
先のイベントで感じたのも、このグローバル化であり、彼女たちの“アウェイ感”が生み出す感動だった。例えば京都でいう芸妓は、東京では芸者、舞妓は半玉(はんぎょく)や雛妓(おしゃく)と呼ぶように、言葉も違えば、文化も全くと言っていいほど違う。東京も京都から見れば、ある意味、外国同然だし、その逆もしかりだ。
彼女たちにとって“アウェイ”の地である東京の、しかも六本木のど真ん中という超都会的なロケーションで、超伝統的な舞を披露するという、一見真逆に思えるふたつの要素がみごとにマッチして、斬新なフュージョンを巻き起こした。紅色のステージで蝶のように華麗に舞う芸舞妓に、来場客はみな釘付け。通りがかりに立ち止まり、ポカンと口を開けたまま、うっとりした目で眺めている人もいた。
しかも、小雨のぱらつく中、お引きずりに白塗り姿で、蛇の目傘を片手に、一同そろって新幹線に乗り、六本木ヒルズまで貸し切りの大型バスでやってくるという演出。一般人が同じことをしても、それは至って普通の行為にしかみえないが、彼女たちは何をしても絵になってしまう。グラスを持つ、椅子に座るという所作ひとつとっても、すべてが優雅で美しくみえるのは、見た目だけでなく、ひたむきに技芸を磨き続け、伝統文化を体現している“歩く芸術”だから。私はそんな風に思う。ニッポンの魅力を伝播する芸舞妓の活躍、これからも絶大に応援していきたい。
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