美食大陸オーストラリア Spin Off 
ビクトリア州 メルボルン(2)

2015.11.02

CLIPPING
Spin Off ビクトリア州 メルボルン(2)

いまやミシュランランキングを凌駕する勢いで食通の話題となり、各国で訪問するガストロノミックなレストランのガイド的存在といえるのが、サンペレグリノ&アクアパンナがスポンサーを務める「世界ベストレストラン50」。その2015年度ランキングのなかで32位(これまでの最高位は21位)。オーストラリアでは唯一、トップ50にランクイン。「Best Restaurant Australia」も得ているのが、メルボルンにあるAtticaだ。

世界のベストレストラン50にランキングされる予約の取れない店

もし、この店の訪問を目的にメルボルンを訪れるのなら、飛行機のチケットを取る前に予約をゲットすること。世界中の美食家たちで連日満席、オーストラリアきっての予約困難なレストランなのだ。ちなみに予約はオンラインのみで、3カ月前の第一水曜の朝9時に開始。スタートと同時にテーブルが埋っていく勢いなので、幸運を祈る。

Atticaがあるのは市内から車で10分程度の高級住宅街リッポンリー。いささか簡素な外観だが、一歩、レストラン内に入るとハイエンドな客層たちがテーブルを埋め尽くし、異様な熱気さえ感じるほど。ここの料理を味わうためだけにメルボルンを訪れる人たちもここにはいるはずだ。

Atticaの実力を引き上げた立役者、ヘッドシェフのベン・シューリー氏はニュージーランド出身。地元のネイティブな食材を可能な限り使うという彼の料理哲学は、ニュージーランドの雄大な自然のなかで育ったバックグラウンドから培われたもの。オーストラリアでもそれは揺るぐことなく、この店の真骨頂といえる。もちろんオーストラリア固有の食材に詳しくないゲストも多いため、「Attica Native Ingredients of Australia」という小冊子がゲストへのギフトとして配られる。そこにはイラストをくわえた、メニューに登場するスパイスや木の実、シード類などが詳しく説明されている。

営業はディナーのみ。ピシッとプレスの効いた純白のリネンのテーブルに座ると、メートル(支配人)が挨拶に訪れ、つぎに担当のギャルソンがあらわれる。今回は韓国人の若いギャルソン。驚くのは彼も含め、スタッフの接客がじつにプロフェッショナルだということ。いい意味でも悪い意味でも、オーストラリアの接客サービスはフレンドリー。極めて快適ではあるが、ヨーロッパの一流グランドメゾンやホテルで体験するような凛とした接客を受けることは、いままでの経験上、非常に少ない。

それがここはまさしくプロ中のプロと言える、きっちりと教育された無駄のない動きと目の配り方をすべてのスタッフがおこなっている。オーストラリアのレストランもここまできたのかと感無量。それほど、すばらしい接客だった。

食材の個性を熟知した豪州きってのスターシェフが繰り出す魅惑の16コース

筆者が訪れたのは2015年6月。冬のメニューとなる。マッチングのワインはビクトリア州産でとソムリエにリクエスト。まずは以下の前菜8種類が、ワンバイトサイズで一皿ずつ登場。合わせるのは「Keith Brien X.O. Brut Grand Reserve 1996 Macedon」だ。

・Curd and Local Honeycomb
・Walnut in its Shell
・Goolwa Pippies
・Baby Corn in the Husk
・Wallaby Blood Pikelet
・Lance Wiffen’s Mussels
・Chicken Carrots
・Aromatic Ripponlea Broth

ピピと呼ばれる貝、ワラビーやマッスル(ムール貝)など、日ごろオーストラリアではよく見かける食材だが、丁寧に仕事が施され、ツイストされた料理は想像もつかない風味とテクスチャを発揮。アバンギャルドとでも言いたくなるような個性的なプレゼンテーションも目を引く。ここまで大胆な発想の料理にできるのも、食材の個性を熟知してこそ。ベン・シューリーならではのメニューといえる。

つぎに登場したのは「Snow Crab and Begonia」。合わせるのは「John Gehrig RG Riesling 2009 King Valley」。スノー・クラブはシューリー氏が好んで使う食材のひとつ。淡泊なカニ肉を丁寧にほぐし、コクのあるソースとさわやかなベゴニアの葉とともに味わう。ワインはちょうど取材で訪れたキング・ヴァレー産のリースリングで、料理とも好相性だ。

つづく「Salted Red Kangaroo and Bunya Bunya」は、ベン・シューリーのシグネチャー的料理。昨年参加した、タスマニアを舞台にした「Restaurant Australia」のスペシャルナイトでも登場した、彼の逸品だ。カンガルーの赤身肉と、シャクシャクとした歯ざわりが軽快な豪州原産の植物ブーニャブーニャの取り合わせは、オーストラリアの先住民族アボリジニのブッシュタッカー(伝統食)へのオマージュのようでもあり、味わい深い。合わせるのは「Bass Phillipe Estate Pinot Noir 2010 Gippsland」。

見た目のうつくしい「Marron, Lilly Pilly and Pearl」。マロンは栗ではなく、南オーストラリア州などで養殖されるザリガニのような甲殻類の一種。リリー・ピリーはオーストラリア固有種の植物でベリーのような酸味が特徴。これには「Cobaw Ridge Chardonnay 2010 Macedon」を合わせる。

大き目の陶器の皿に盛られて登場したのは「Minted Potato, Medium Rare」。つまり半熟のジャガイモということ。うえにはフレッシュなミント。このミントをはじめハーブ、野菜などは、レストランの奥にあるオーガニック菜園で収穫されたもの(余興として、デザートの前にゲストはここへ案内される)。そこへ酸味のあるバターと18カ月間熟成させた、タスマニア州産のチェダーチーズソースをたっぷりと。ミディアムレアなので、適度な歯ごたえでジャガイモを咀嚼(そしゃく)していると、ミントの香りとチーズの風味が混じり合って絶品。ビオ・ダイナミック製法の「Pennyweight La Serena Oloroso Beechworth」ともよく合う。

コースの最後は、みごとに茹で上がった赤キャベツ。名づけて「142 Days on Earth」。収穫までの時間が創造した野菜を、生まれたてのままの姿で味わう。そんなコンセプトだ。もっとも柔らかい一枚が皿に置かれ、そこにエミューのダイス状の肉とビーツがたっぷりと。自然が生み出した赤のグラデーションがうつくしすぎる。慈しむように、手でもってゆっくりと味わう。「Syrahmi Cuvee Ripponlea Shiraz 2014 Heathcote」のシラーズの赤との相乗効果もみごと。

デザートは二種類。「Apples and Rhubarb Oil」は冬らしい食感と味。これにはワインではなく「Wild Hibiscus and Davidsonia」でさっぱりと。「Lois’ Jelly Whiph」はホイップしたジェリーに、ピスタチオをたっぷりとかけたもの。「Gembrook Hill Pineau NV Yarra Valley」との組み合わせで。

そして最後に出てきたのが、シューリー氏のゲストへのメッセージ、「Pukeko’s Egg」。プケコとはニュージーランド固有の鳥。子どものころによく見かけた自然への記憶と、年々、失われていく自然環境への警鐘。料理とは地球の恵みと我われ、人間が築いてきた文化や歴史から感じとり、形作られていくものである。そんな彼のおもいが込められたもの。ゲストはすばらしい美食の余韻とともに、食への感謝を心に刻む。これこそがガストロノミーの本質なのだとこの夜、しみじみと感じた。

(Text & Photographs by TERADA Naoko)
Special thanks to Tourism Australia, Tourism Victoria, Cathay Pacific.

Attica(アッティカ)
http://www.attica.com.au

<取材協力>
オーストラリア政府観光局
http://www.australia.com
ビクトリア州政府観光局
http://jp.visitmelbourne.com

OPENERSより
美食大陸オーストラリア、美食とワインをめぐる旅へ|ビクトリア州
メルボルン(2)|特集
http://openers.jp/article/1409224

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