エキスパートが指南する
初心者のための東京国際映画祭入門(2)
2014.10.24
- CLIPPING
いよいよ10月23日(木)から東京国際映画祭(TIFF)が開幕。今回注目したのが、10月24日(金)からTIFFの特別提携企画として東京国立近代美術館フィルムセンターで開催される「MoMA ニューヨーク近代美術館 映画コレクション」だ。本特集の企画を担当した同フィルムセンター研究員の入江良郎氏に、全23作品のなかから特におすすめの5プログラムについて解説してもらった。
世界屈指の映画コレクションを、最良のプリントで
MoMAの通称で知られる「ニューヨーク近代美術館」。その映画部門は、イギリス生まれの映画評論家アイリス・バリー氏の献身的な努力により、美術館設立から6年後の1935年に誕生した。それから80年、MoMAは膨大なコレクションを蓄積し、野心的な上映プログラムを展開しつづけている。 今回の特集について「MoMAが誇る世界屈指の映画コレクションを、最良のプリントで鑑賞することができる千載一遇の機会です。プログラムは、草創期のアメリカ映画からハリウッド作品、前衛映画まで多岐にわたります」と語る入江氏の解説を早速見ていこう。
『香も高きケンタッキー』
「本特集では、アメリカ映画史を代表する巨匠たちの作品が並ぶのも見どころで、『香も高きケンタッキー』もファン垂涎の1本。ジョン・フォード 監督の初期の作家形成を知るうえで重要な無声映画作品であると同時に、二代にわたる競走馬の物語を、なんと馬の語りによって綴るという奇抜な発想 とスタイルにも驚かされます。ヨーロッパの現代映画作家やコアなファンが崇拝する“幻のフォード作品”としても知られます。スティーブン・スピルバー グ監督の『戦火の馬』をも予言する映画の古典。11月2日(日)のピアノ伴奏付上映もお見逃しなく」
『ビッグ・トレイル』
「ラオール・ウォルシュ監督、そしてジョン・ウェインの初出演作となった叙事詩西部劇であると同時に、多くの映画を散逸から守ったMoMAによる復元作品としても名高い作品です。本作は、大型映画時代が到来する20年以上も前に、70mmワイドスクリーンの『グランジャー』方式で撮影されました。その当時のオリジナルネガをもとにMoMAが1985年に35mm上映プリントを復元して現代に甦りました。『幌馬車185台、牛1800頭、馬1400頭、水牛500頭…』と謳われた超大作を、フィルムセンターのスクリーンでご堪能ください」
アンディ・ウォーホル プログラム
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』
「MoMAのコレクションのなかでも特に高い人気を誇るアンディ・ウォーホルの映画作品。今年は約500本のフィルム素材をデジタル化する巨大プロジェクトもスタートしています。本特集では、1ロールのフィルムでひとりひとりの人物を撮影した『スクリーンテスト』シリーズから編まれた1本、そして伝説のロックバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコがウォーホルのスタジオ『ファクトリー』でおこなった即興演奏を撮影した1本が登場。いずれもオリジナルフォーマットの16mmプリントで上映される貴重な機会となります」
『スウィート・スウィートバック』
「黒人監督メルヴィン・ヴァン・ピーブルズが、警察に追われるヒーローに自ら扮し興行的な成功を収めた『ブラックスプロイテーション』映画の原典。公開当時は批評家たちを困惑させ、暴力やセックスの描写でX(成人映画)指定を受ける一方、既成概念を逸脱した作品のスタイル、大胆な話法は、その後のインディペンデント映画はもちろん、メジャー作品にも大きな影響を与えました。2004年にヴァン・ピーブルズがMoMAにオリジナルネガを提供し、マーティン・スコセッシ監督のフィルム・ファンデーションの協力で復元された作品です」
『ディケイシャ』
「タイトルのDecasiaはdecay(腐食)とfantasia(ファンタジア)を組み合わせた造語。ビル・モリソンは、古いアーカイブ・フッテージから劣化の進行したフィルムを集め、コラージュ作品を生み出してきた映像作家で、いままさにMoMAでは、その大がかりな特集上映を開催中です。本作は、アメリカ合衆国ナショナル・フィルム・レジストリー(映画の文化財登録)に指定された最も“若い”映画としても話題を呼んだ、極め付けの1本(DCPによる特別上映)。溶解し、被写体の像を侵食するエマルジョンにフィルムの生と死が交錯します」
入江氏厳選の5プログラムのほかにも、D・W・グリフィス監督の短編や、ウォルト・ディズニー自身が製作した貴重なアニメーション、若き日のマーティン・スコセッシ監督が自身の両親を撮った貴重なドキュメンタリーなども上映され、多種多様な作品群の数々に触れることができる。ぜひこの機会にMoMAの映画コレクションの豊かさと独自性を堪能してほしい。
東京国立近代美術館フィルムセンター 主任研究員
日本大学芸術学部映画学科卒業。早稲田大学大学院文学研究科 修士課程(演劇学)修了。1995年より東京国立近代美術館フィルムセンター研究員として、映画フィルムと映画関連資料の収集、保存、上映、展示等の事業運営に携わる。
『MoMA ニューヨーク近代美術館 映画コレクション』
日程|10月24日(金)~11月9日(日) ※月曜休館
会場|東京国立近代美術館フィルムセンター 大ホール
東京都中央区京橋3-7-6
定員|310名(各回入替制)※弁士・伴奏付きのプログラムは299名
料金|一般1300円/高校・大学生・シニア1100円/小・中学生520円/障害者(付添者は原則1名まで)520円、キャンパスメンバーズ900円(学生)、1000円(教職員)※共催企画の特別料金
※チケットは当日、当該回のみ有効。発券、開場は開演の30分前からおこない、定員に達し次第締切
※発券は各回1名につき1枚のみ
※本特集のチケット半券提示で入場料割引(一般1100円/高校・大学生・シニア1000円)
主催|東京国立近代美術館フィルムセンター、一般社団法人コミュニティシネマセンター(シネマテーク・プロジェクト)、東京国際映画祭、モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)、株式会社日本国際映画著作権協会
特別協力|ニューヨーク近代美術館
http://www.momat.go.jp/FC/fc.html
http://2014.tiff-jp.net/ja/
OPENERSより
いよいよ「MoMA ニューヨーク近代美術館 映画コレクション」が10月24日(金)に開幕
http://openers.jp/culture/tips_movie/news_tiff_guide_moma_49130.html