シンガポールの家庭像を誠実に描く
『イロイロ ぬくもりの記憶』
2014.12.16
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- ©2013 SINGAPORE FILM COMMISSION, NP ENTERPRISE (S) PTE LTD, FISHEYEPICTURES PTE LTD
昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)に輝き、東京フィルメックスでも観客賞を受賞したアンソニー・チェン監督作品『イロイロ ぬくもりの記憶』。12月13日(土)より、新宿K’s cinemaほかで全国順次公開される。
描かれるのは核家族で育つ息子と
メイドの心の交流
物語の舞台は1997年のシンガポール。共働きで多忙な両親をもつひとりっ子のジャールーは、わがままな振る舞いから小学校でも周囲の人びとを困らせてばかりいる問題児。そんな息子にすっかり手を焼いた母親は、フィリピン人のメイド、テレサを住み込みで雇うことに。
戸惑いを見せるジャールーだったが、仕送り先の息子への想いを抑えて必死で働くテレサにいつしか自分の抱える孤独を重ね、次第に心を開いていく。だがそんな折、父親がアジア通貨危機による不況で失業に追い込まれ、母親の心にもテレサに対する嫉妬に近い微妙な感情が芽生えはじめる。
監督の幼少時代を題材に
普遍的な価値観を散りばめる
監督は本作がデビュー作となるアンソニー・チェン。まだ30歳という若さながら、脚本・演出・撮影・編集など、あらゆる点で新人離れした完成度の高さを見せ、台湾金馬奨の審査委員長だったアン・リー監督をして「誠実で正直な映像のあり方が突出している」と言わしめた。
昨年の東京フィルメックスの上映時におこなわれた質疑応答で、観客からタイトルの意味を問われたチェン監督は「4歳から12歳までの8年間、わたしの家庭にもフィリピン人のメイドがいました。“ILO ILO(イロイロ)”は彼女の故郷の地名です。可愛い音の名前でよく覚えています」と説明。さらに監督が企画時に子どものイメージとして思い描いたのは、トリュフォーの『大人は判ってくれない』だと打ち明けている。
監督の幼少時代を題材に、小さな家族を描きながら、家族の問題や少年の成長、さらには資本主義社会への疑問から、移民や階層の問題など、文化や国境を越えた普遍的な価値観が散りばめられた『イロイロ ぬくもりの記憶』。どこか懐かしいシンガポールの日常をとおして、自分自身の幼少時のささやかな思い出が、そっと想起されることだろう。
『イロイロ ぬくもりの記憶』
12月13日(土)より、新宿K’s cinemaほかで全国順次公開
監督・脚本|アンソニー・チェン
出演|ヤオ・ ヤンヤン、チェン・ティエンウン、アンジェリ・バヤニ、コー・ジャールーほか
配給|日活/Playtime
2013年/シンガポール/99分/原題:爸媽不在家/英題:ILO ILO
OPENERSより
MOVIE|第66回カンヌ国際映画祭カメラドール受賞作
http://openers.jp/culture/tips_movie/news_iloilo_nukumori_50235.html